コンセプトのつくりかた

今日は、玉樹真一郎 著の『コンセプトのつくりかた 「つくる」を考える方法』という本をご紹介したいと思います。ここ最近は読書はしているものの、訳あって心理学やら神経科学やらの小難しい専門書をひたすら読み漁っていました。そんな事をしているとかなり疲弊してくるので、ちょっと気分を変えて違うジャンルの本を手に取ってみました。読んでみると個人的にかなり面白かったので、是非共有したいと思います。

この著者は、大ヒットした任天堂のゲーム機「Wii」の元企画担当者が書いた本です。内容はタイトルの通りシンプルで、どうやってコンセプトをつくるかについて書かれています。コンセプトとは何か?ということについて著者は「まえがきのまえ」というページで以下の様に述べています。

広告やコンサルティング業界の人が振りかざす、小難しい道具?
何やらクリエイターに必要なアイデアとか発想とか?
…実は違います。
私たち誰もが、何かをするとき、生み出すときに最初に考えること。
それが「コンセプト」です。

何やらモヤっとしていて結局何が言いたいのかわからないでしょうか?実際、著者はこの「コンセプト」という言葉に色々な意味や思いを込めて使っています。何かを進めていく際に立ち返る場所、という意味でも使っていますし、世界を良くする方法、また自分と世界をつなぐもの、というように。後で僕なりの解釈はご紹介しますが、著者の真意は、是非実際に本書を読んで理解していただきたいと思います。

では、この本を読んで面白いと思ったこと、参考になったことをご紹介していきたいと思います。まず最初は、何と言っても極めて具体的にコンセプトの作り方を説明してくれている点だと思います。冷静に捉えれば、企画・アイデア発想法、特にブレインストーミングの手法をわかりやすく説明しているに過ぎないのかも知れませんが、僕が「参考になった」と感じたのは以下の点からです。

ブレインストーミング、これはアイデア出しをする時などに行う会議の手法なのですが、簡単に言えばとにかく制約を設けずに次々と自由にアイデアを出しまくる方法のことです。これを発散と言います。しかし、最終的にはその発散したアイデアを纏めないと収拾がつきませんので、もう出尽くしたな、と思ったら次はそれを収束させていきます。

僕は個人的に、ブレインストーミングの難しさは発散ではなく、収束にあると思っています。僕が不勉強なせいもあるでしょうが、今まで読んだ本の中で、ここまで収束のやり方を具体的に説明してくれている本はありませんでした。従ってブレインストーミングをやったけど収集がつかないよ!という悩みをお持ちの方は、とても参考になると思います。

この本を読んで面白かったこと、参考になったことの二つ目。それはコンセプトの作り方を、実際に「Wii」のコンセプトを作った時の例を挙げて説明してくれているところです。Wiiは家庭用ゲーム機の裾野を広げたと言っていいと思いますが、その製品のコンセプトがどのようにして作られたのか、それを追体験できるのはとても面白いと思います。特にゲーマーの方は「なるほど、そうだったのか!」と思う瞬間があると思いますよ!

そして三点目。それは著者が「コンセプト」という言葉に込めた思いに触れられたことです。著者は、明らかに辞書的な意味を拡張して「コンセプト」という言葉を使っているのですが、それはもはや自分の情熱、使命、アイデンティティに関わるほど深いものだと思います。

まず最初に強調されるのは、世界を良くするための指針、という部分です。もちろん、営利団体が行う事業はその背後に利益を出さなくてはならない、という宿命があるのですが、それよりも、どうやったらもっと世界が良くなるか、という思いがコンセプトには込められるべきなんだということを強く感じました。

それから、その「良さ」というものが既存の良さではなく、未知の良さであるべきだということ。既に誰もが価値を認めているような「良さ」ではなく、世の中の人が「おお、こんな良さもあったのか」と思うような、そんな未知の良さを世界に提案するために、著者の言うような「コンセプト」が不可欠なのだと思います。もちろん、既存の良さを追求していくという戦略もあり得るのですが、それをするには莫大なリソースが必要だよ、という現実的な視点も混ざっています。

そんなコンセプトを生み出すためには、方法論だけでなく自分の本質や根源から様々な思いを絞り出すことが重要です。この本を読んでいて、著者の言うコンセプト作りは、自分のアイデンティティを構築していく作業にとてもよく似ているなと思いました。

さて、ここでは大きく3つのポイントを挙げてみましたが、他にも参考になるポイントが沢山あると思います。文章も読みやすく、ゲームになぞらえた表現なども出てくるので、さらっと読めてしまいます。何か新しく行動を起こしてやろう、と思っている方には是非読んで頂きたいオススメの一冊です。勇気をもらえますよ。

なぜビジョナリーには未来が見えるのか?

今日は、エリック・カロニウス 著の「なぜビジョナリーには未来が見えるのか? 成功者たちの思考法を脳科学で解き明かす」という本をご紹介したいと思います。著者はウォールストリートジャーナルやニューズウィークなどで活躍しているジャーナリスト。脳科学の棚にあった本ですが、専門書ではないのでとても読みやすいです。

さて、「ビジョナリー」とは何でしょうか?将来を見通す力、つまりビジョンを持った人のことをビジョナリーと呼んでいるようです。ただ、ビジョンを持っているだけでなく、そのビジョンを実現するためにはどんなことも厭わない、そんなニュアンスも含まれています。この本に出てくるビジョナリーは、ヴァージングループのリチャード・ブランソン、アップルのスティーブ・ジョブズなど、いわゆる成功者と呼ばれる人たちです。

今まで、彼らの成功の秘訣を解き明かそうとした本は沢山ありましたが、この本の面白いところはそれを脳科学の観点からやろうとしたことだと思います。脳科学は近年急激に進歩し、様々なことがわかってきています。「はじめに」では以下のように語られています。

とりわけ、脳が「ビジョンをもたらす装置」であるという発見が興味深い。脳には元々、私たちの思考に「像」をもたらし、実在しないものの青写真をつくる機能が備わっている。また、脳には顕在意識で解決できない問題を無意識下で解決しようとする傾向があることや、絶えずパターンを探し求めていること、自分を取り巻く世界をつねにつくり変えていることも明らかにされつつある。

脳が「ビジョンをもたらす装置」という考え方は、とても面白いですね。確かに僕たち人間は、まだ現実化していない自分の考えを、想像力を使ってありありとイメージすることができます。成功者と言われる人たちが、そんな不思議な装置である脳をどのように使っていたのか、とてもわくわくしながら読むことができました。

この本では、ビジョナリーが優れている点を以下のように挙げた上で、それらを脳科学的に見るとどういうことなのか、という考察が加えられています。

  1. 発見力
    僕たちの脳は、常に「パターン」を探していると言います。日々膨大な情報に晒されている脳は、物事をパターン化することで、効率良くものを記憶しているのです。何かを発見するということは、このパターンを見つけることに他なりません。ビジョナリーは、普通の人がなかなか見つけられないパターンを見つけることに長けているのだと言います。しかし、彼らは存在しないものを見ているものではなく、目の前にあるものを見ているだけなのだ、という指摘にはちょっと勇気づけられます。
  2. 想像力
    脳の研究から、想像で描いた像と、実際に物や人を見た像は、どちらも脳内の同じ場所で生み出されると言います。つまり、想像力が生みだす像は、実際に目で見たものと同じくらいリアルに感じられるということでしょう。ビジョナリーには、これから実現しようと思っているアイデアが「見えていた」と言います。そのためには、ただ寝そべって頭の中で考えるのではなく、現実世界に出て行って、様々なことを自ら経験することが大事だそうです。
  3. 直観
    直観については以前からこのブログでもご紹介していますが、直観とは無意識の声です。何かを決断する時、無意識が大統領、顕在意識は報道官である、という例えが出てきますが、無意識の力は普段僕たちが意識しない間にもずっと働いていて、それが直観という形で浮かび上がってくるということですね。
    しかし、直観が常に正しいわけではありません。間違ったパターンにとらわれることもあります。しかし、ビジョナリーは、自分の直感が正しいのか間違っているのかを判断できると言います。それは、実践で経験を積み洞察力を鍛えているから、ということのようですね。
  4. 勇気と信念
    脳には、目的意識を背後から操る神経伝達物質があるそうです。それがドーパミンです。ドーパミンは、人にやる気を起こさせ、目的を魅力的なものに思わせる働きがあるそうです。また、新しいパターンを見つけることを促す作用もあるのだとか。
    ビジョナリーは、高い目的意識を持っています。おそらく、ドーパミンが多い放出されているのではないでしょうか。そう考えると、ある意味で目標に向かって突き進まざるを得ない「達成依存症」と言えなくもないかもしれませんね。そして、高い目的意識の背後には、何かを「よりよくしたい」という強い情熱があることも合わせて指摘されています。
  5. 共有力
    たとえビジョナリーであっても、一人で何かを成し遂げることは難しいでしょう。彼らは、人を巻き込むのが得意なのです。彼らが熱意を持っているのはわかりますが、何故人は巻き込まれてしまうのでしょうか。著者はミラーニューロンが関係する可能性が高い、と述べています。ミラーニューロンは、他者の感情を自分の感情として感じるニューロンのことです。つまり、彼らはミラーニューロンを通じて熱意を他者に感じさせることが得意だということなのでしょう。偽りのない、自分の心の奥底から湧き出るありのままの情熱が人を動かす、これはいわゆるカリスマ性の正体かも知れません。

  6. 成功するかしないか、そこに運の要素はつきものです。ビジョナリーは運がいいようです。しかし、運をコントロールすることはできるのでしょうか?どうやらこれは、決してあきらめない、チャンレンジする機会を増やす、ということが関係していそうです。そして、最終結果をコントロールすることはできなくても、ここに挙げたような様々な能力を使って一回一回のチャンレンジの精度を上げることもできるのです。

さあ、如何だったでしょうか?脳は大人になっても成長を続けると言います。こういったことを取り入れれば、ビジョナリーになれるかも知れませんね!本書には他にも、「ビジョンを曇らせるもの」「ビジョナリー気取りの誤算」「ビジョンを習得することは可能か?」など興味深い論点が用意されています。ビジョナリーと言われる人たちのエピソードが多く含まれているので、読んでいてとても面白いですよ。機会があれば、是非読んでみてくださいね!

シンクロニシティ 未来をつくるリーダーシップ

今日は、ジョセフ・ジャウォースキー 著の「シンクロニシティ 未来をつくるリーダーシップ」という本をご紹介したいと思います。この本は、いわゆる“積ん読”状態になっていた本でしたが、ふと目に止まったので読んでみました。

皆さんは、シンクロニシティという単語をご存じでしょうか?日本語では共時性と言います。「二つ以上の出来事が重要な意味を持って同時に起こる事。そこには単なるチャンスの到来以外の何かが関わっている」と定義されており、心理学で非常に有名なC・G・ユングが提唱しました。このシンクロニシティについては、監修者解説の中で以下のように説明されています。

ある事象と別の事象が、さらにまた別の事象が、時間的に近接して、つぎつぎとつながりを持って生まれるような現象に出会い、それらの事象間に必ずしも因果で説明できる部分がなければ、それはシンクロニシティと言っていいだろう。

ちょっと不思議な感覚なのですが、皆さんもそんな経験はないでしょうか?何故だかはよくわからないけど、何となく意味やつながりを持つと思われるようなことが身の回りで次々と起きて、不思議な感覚を味わった経験。具体的な内容はあまり思い出せませんが、僕はその感覚を度々味わっているような気がします。

この本の内容は実話です。著者の身に実際に起こった「シンクロニシティ」が物語として語られていて、とても面白いです。物語なのでとても読みやすかったですし、とても感動しました。あまりにも面白かったので明け方までかかって一気に読んでしまいました。

さて、物語の中で語られるシンクロニシティを「不思議な偶然」として片づけてしまっては意味がありません。僕は、物語を読む中で、シンクロニシティに関して主に二つの教訓を得ました。

一つ目は、やはり人は自分が心の底からやりたいこと、やる必要があると思えることをやるべきだということです。欲求を突き詰めていくと、自分の利益と他人の利益が合致するポイントが必ずあります。それに対してコミットした時、まさに何かに導かれるように様々な偶然が起こって手助けしてくれる、それがこの本で本当に言いたかったシンクロニシティなのだと思います。本の中では、方向は決めるが目的地は決めない、何故なら流れに身を任せていれば導いてくれる、というようなことが書いてありましたが、この言葉の意味するところがやっとわかったような気がします。

もう一つは、著者に強い意思だけでなく、積極的で行動力があったこと。強い意思があれば、強く信じていれば、それだけでどんどんいいことが起こるわけではありません。自ら積極的に行動を起こし、他人を巻き込み、その連鎖が続くことで偶然としか思えないような結果が生まれました。「強く願えば思いは叶う」という言葉がありますが、それは暗に「強く願えばこそ、それにまつわるあらゆる行動をいとわない」という意味をも含んでいるのだと思います。

ところで、このシンクロニシティと副題の「リーダーシップ」とはどう関係があるのでしょう?僕も本を読み始めたときに疑問に思いました。読んでみるとわかりますが、この二つは直接的に関係はありません。著者はあるきっかけから、世の中を変える次世代のリーダーを育てなければ、という思いに駆られます。それを実現すべく著者自身もリーダーシップを発揮していくのですが、そうして行動をしていくうちにシンクロニシティと言うべき出来事が次々と起こっていきます。

シンクロニシティについては上記で少し触れましたが、著者が言う「リーダーシップ」もまた、とても示唆に富んだ内容になっています。著者が言うリーダーシップとは、「サーバント・リーダーシップ」というものです。これについてとあるエッセイを引用し、このように述べています。

グリーンリーフはこう述べている。リーダーシップの真髄は、互いに奉仕しあいたいという願望、自分たちを超えたものに、より高い目標に奉仕したいと言う願望である、と。伝統的な私たちの考え方では、「サーバント・リーダーシップ」というのは矛盾した表現であるように思われる。しかし、さまざまなつながり合いから成り立っている世界においては、関連性こそがこの世界を秩序だてる原理であり、その表現はきわめて理にかなっている。

サーバントとは奉仕者という意味です。まさに、僕たちが普段思っているリーダーとは逆のイメージですね。リーダーに仕えるのがサーバントなのでは?と思ってしまいます。しかし、そうではなく、チームのメンバーに「奉仕」し、世の中に「奉仕」することがリーダーシップである、ということのようです。

リーダーに関してはこうも言っています。リーダーシップとは、「すべきこと」ではなく「あり方」なのだと。リーダーとは何かを考える時、「リーダーとはこういう行いをすべき」という行動面からから考えるのではなく、「われわれは共同で、何を創り出すことができるか」という姿勢を持つ、高い目標に奉仕できるマインドセットこそ、リーダーシップなのでしょう。こう捉えれば、リーダーシップは特定の人しか持っていない資質ではなく、考え方を変えることによって誰もが持ち得る考え方だということが理解できます。

本書は、物語の形式をとってはいますが、単なる事実ではなくそれが意味するところも十分に語られており、とにかく理解がしやすいです。ただ、理屈ではなく感覚で理解する必要がある部分もあるので、それはこれからまた読み返し、考え、そして行動を通して身につけていきたいと思っています。

本書の内容は、以前ご紹介した「U理論」とも深い関連があります。本書の内容をさらに深め、実践的なセオリーにしたのがU理論とのことですが、U理論を理解するためのヒントとしてもとても役に立ちました。

リーダーシップ、シンクロニシティ、そして物語。一冊で三度おいしい本です。この本を読み終わった後、自分もいよいよ夢の実現に向けて動き出さなければ、という決意に近い思いに至りました。夢がある方、世の中を変えたいと思っている方にはお奨めですよ!監修者解説にも、このような人に読んでほしい、と書かれていました。

  • 夢を探している人
  • 夢を再チェックすべき中年の人
  • 「リーダーシップの旅」が自分の夢とかかわると思っている人
  • 人々とのつながりを大切にしている(もっとそうしたいと思っている)人
  • 「自己実現」や「個性化」は、理解するのも実践するのも難しいと思っている人

これに少しでも該当すると思った方は、是非読んでみてくださいね!

完結版マイ・ゴール

今日は、リチャード・H・モリタ 著の「完結版マイ・ゴール 成功の秘訣は“選択”そのものにあった!」という本をご紹介したいと思います。「完結版」と付けられていますが、他にも新装版、ダイジェスト版など、Amazonで探しただけでも4つのバージョンが存在します。バージョン間の違いはよくわかりませんが、完結しているのならそれを読もう、ということで完結版を読んでみました。

この本はいわゆる成功哲学、自己啓発本にジャンル分けされると思いますが、主張はとてもわかりやすく、シンプルです。「はじめに」の冒頭には以下のように記されています。

結論から。
人生は選択の連続であり、今の人生は過去の選択の結果です。
そして未来は、これからあなたがどんな選択をするのか、その選択によってすべてが決まります。
もちろん目標を達成していくプロセスにおいては、たゆみない、人一倍の努力は当然のことですが、成功と自己実現の真相には、そうした「積極的に懸命な努力をしたから」というだけでは到底説明することのできない重要な事実が横たわっています。その事実こそ“選択”の問題だったのです。

成功哲学というと、いかに成功するかという方法論だと考えがちです。つまり、どのように考え、行動すれば成功できるのか、というプロセスに着目する考え方です。しかし本書では、プロセスも勿論重要だけれども、それよりも大事なのは「どんな目標を選択するのか」なのではないか、と説いています。

著者がこのような考え方に至った経緯が本書の中でも説明されていますが、当初はやはり「どうすれば成功できるか」という論点がスタート地点だったようです。それを調べるべく、成功者にインタビューを重ね、共通項目を抽出して「究極の成功ノウハウ」を作ろう、という研究を始めました。

しかし研究を進めていくうちに、ほとんどの成功者は自分がどうやって成功をつかんだのか、その本当の理由を上手く説明できていない、ということに気が付きました。人一倍努力をした、成功した姿を鮮明にイメージした、ポジティブだった、などと答えは返ってくるのですが、よく考えてみると的確な答えになっていない。そこからさらに突き詰めていった結果、実は目標の選択そのものが成功者たちに意欲を与え、努力を引き出したという結論に達したそうです。

僕はこの考え方はとても共感できます。そもそも僕は「成功哲学」というものにあまり興味がないのですが、その理由の一つに「成功という言葉の曖昧さ」があります。何を以って成功と呼ぶのか。それはあまりにも相対的で、人によって違うのだとすれば、それに達するプロセスも違うはずではないのか。そんなわけで、成功哲学を読むときは「あくまでこの人は自分の成功の理由をそう分析しているんだな」、と参考程度に捉えてきました。

さらに僕は、目標を達成するための方法を、人は直感的に知っているのではないかとも思っています。心の底から達成したい目標があるとき、具体的な方法を調べたり、試行錯誤を繰り返しながら目標に少しずつ近づいて行こうとします。そこに多少の効率の善し悪しはあるかも知れませんが、その努力を支えるだけのモチベーションがあるかどうか、そちらの方が重要なのだと思います。

先ほどから「目標」という言葉が出てきていますが、本書ではさらにもう一歩進んだ「マイ・ゴール」というものを扱います。定義は、「個人が、これだけは絶対に達成(手に入れたい)したいと思えるもので、またその目標が自分の才能や能力に合っているもの」とされています。ただの夢ではなく、「やりたいこと」「できること」「むいていること」を一致させた、実現可能な目標とも言えます。

ただの夢ではなく、ここで言う「マイ・ゴール」を見つけるためにはどうすれがいいのか。それは、自己認識を深めることです。つまり、自分が「やりたいこと」「できること」「むいていること」をきちんと認識できているかがカギになります。本書では自己認識を深める方法として、生活史の作成を勧めています。生活史とは、今まで自分が生きてきた過去を振り返った物語のようなものです。

過去を振り返るのに消極的なイメージを持つ方もいるかも知れません。しかし、それについては以下のように書かれています。

よく「過去を振り返るな!」と耳にする。確かに過去を振り返り、過去に生きることは愚かなことだ。しかし、過去の記憶から「ありのままの自分、本当の自分」を認識し、そこから教訓や情熱を見出し、眠っていた夢を復活させていくプロセスの中でマイ・ゴールをつかみ、“これから”を生きることはとても積極的な行為なのだ。

今の自分を作っているのは過去の選択です。そしてその過去の膨大な記憶が、今の僕たちに大きく影響していることは間違いありません。しかし過去の記憶はとても曖昧なもので、時とともに事実とはズレてくることがよくあります。そんな誤った自己像から、本当に素晴らしいと思える目標を設定できるでしょうか?そう、過去にとらわれる為ではなく、自分が本当に望む未来のために、今一度過去を棚卸して自己認識を再構築する必要があるのです。

本書の中には、生活史を作るために役立つ質問集なども含まれています。また、後半は物語になっており、理論だけだとわかりにくい、という方はストーリーを通して「マイ・ゴール」とはどういうものかが理解できるようになっています。ここに紹介しきれなかった様々な論点があり、度々「なるほど!」と思わされました。「成功哲学」には興味はあるけどなんか胡散臭い、と思っている方には本当にオススメの一冊です。是非読んでみてください!

U理論

今日は、C・オットー・シャーマー 著の『U理論 過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術』という本をご紹介したいと思います。最近の僕は「人が変わる仕組み」について知りたいと思っていて、この本の副題には興味をそそられたので読んでみました。

実際に読み始めるまで、どんな内容の本なのか全く把握していませんでしたが、これはなかなか強敵でした。内容が600ページ近いというのもさることながら、言葉では説明しにくい部分を文章で説明しようとしていて、かなり難解でした。一度読んだだけでは100%腑に落ちた感覚になるのは難しいですが、何らかの問題意識を抱えていて、世の中を変えたいと思っている人にとってはとても重要なことが書かれている気がします。

また読み返したいと思っていますが、とりあえず一度読み終わった段階でこのU理論というものが何なのかを僕なりにまとめてみたいと思います。

この本は、現代に生きる僕たちが抱えている諸問題(個人的なものも、社会的なものも含めて)はどんどん複雑性を増しており、今までのやり方で解決することは難しい、という問題提起から始まっています。今までのやり方とは、「過去から学ぶ」というやり方。つまり、過去から学んでいるだけでは、今僕たちが抱えている諸問題を解決することができないということです。そうではなく、僕たちは「未来から学ぶ」必要があるのだと著者は言います。その手法を体系化したのが本書で扱っているU理論ということになります。

さて、この「未来から学ぶ」という言葉。いきなり難解ですね。それが何かを結論づける前に、U理論のプロセスを簡単に辿って行きましょう。

僕たちは何かを解決しようとするとき、「過去に似たようなことがなかったか」という観点で考えることが多いですよね。その過去のケースが上手くいったのならば、今回もそれと同じ方法で解決できるのではないか、こう思います。或いは、そんな思考すら通さず、習慣的に対応することさえあります。しかし、今僕たちのまわりで起こっていることは、あまりに複雑で状況も刻々と変わっているため、このような「過去から学ぶ」やり方では通用しません。

この「過去から学ぶ」という行為を、この本では「ダウンローディング」と呼んでいます。既に確立されている解決策を、そのままダウンロードして適用する、というイメージなのでしょう。このダウンローディングを止めるというのが、U理論のスタート地点です。

ダウンローディングを止めるということは、起きている現象をステレオタイプとして捉えるのではなく、「観察する」ということです。「ゼロベース」という言葉にも似ていますが、要は先入観を捨てることが重要です。先入観を捨てることで、今まで見えていなかったものが次々と見えてくるようになります。

しかし、あるものを「観ている」という状態は、自分がその内部にいないことを意味しています。つまり、自分が「観ている」ものは、自分とは区別された何かであり、自分の外で起こっていること。当事者意識を感じられていないんですね。しかし、問題を解決するためには、自分がその問題を引き起こしている状況の一部であることを「感じ取る」必要があります。つまり、視野が自分という個人から全体へと移る、これが次のステップです。

さて、ここまで来てやっと、「未来から学ぶ」ための準備が整ったことになります。「感じ取る」の次のステップを「プレゼンシング」と言いますが、この言葉の意味は「出現しようとしている未来の可能性を認識すること」です。この解釈は特に捉えどころが難しいので、かなり自分の解釈が入っていますが、つまり以下のようなことだと思います。

今までのプロセスで、ステレオタイプ的なものの見方を止め、自分を当事者として認めました。しかし、既にダウンローディングは止めてしまっているので、過去の解決策をそのまま持ち込むことはできません。つまり、問題をどう解決するかを「自分の頭」で考えなくてはならないのです。これは言いかえれば、「どのような未来を描き」、「その未来に対して自分がやるべきことは何なのか」を明らかにすることでもあります。

「どのような未来を描き」、「その未来に対して自分がやるべきことは何なのか」。この問いに答える為には、自分は何者なのか、をきちんと認識している必要があります。自分のことをよくわからなければ、どんな未来になって欲しいか、それに対して自分に何ができるか、はわかりませんからね。つまりここで、「思い描く未来像」と「自己の本質」が深い部分で繋がることになります。だいぶデフォルメしていますが、これが「未来から学ぶ」ということだと僕は解釈しました。

この「プレゼンシング」以降は、実際に行動に移していくプロセスです。出現する未来の可能性を元に具体的な未来像を構築し(「結晶化」)、試行錯誤を繰り返し(「プロトタイピング」)、最終的に実行に移していく(「実践する」)。それぞれに論点はありますが、もっとも分かりにくく、かつ重要なのはやはり「プレゼンシング」の部分でしょう。

なかなかすんなり入ってきにくいですが、U理論の概要はこんな感じです。この本では、難しい言葉も沢山出てきますが、このU理論が様々な観点から繰り返し説明されているので、なんとか読み進めていくことができます。実例なども数多く紹介されているので理解の助けになってくれると思います。

付け加えるなら、全部で21章まであるうちの20章までは理論的な説明がほとんどなので、「じゃあ一体どうすればいいの?」というストレスを抱えながら読むことになります。しかし、最後の章を読んで印象は一変しました。この章は「プレゼンシングの原則と実践」というタイトルなのですが、マニュアルのような形式でU理論を実践するためのステップが説明されています。これはとてもわかりやすく、実践の手引きとしても、理論の具体的理解にもとても役立ちます。

最初にも書きましたが、世の中を変えたい、組織を変えたい、自分を変えたい、という問題意識を持っている方にとっては、今までにない考え方が紹介されている良書だと思います。そして、直感的にこれは、これから先の時代を生きていくにあたってとても重要な考え方だと感じています。確かに読むのは大変ですが、特に組織や社会を変えたいと思っている方は是非読んで頂きたい一冊です。

ザ・ビジョン 進むべき道は見えているか

今日は、ケン・ブランチャード 著の「ザ・ビジョン 進むべき道は見えているか」という本をご紹介したいと思います。この本は、先日ご紹介した「1分間アントレプレナー 黄金の起業法則」の著者が書いたビジョンについての本です。

この本も「一分間アントレプレナー」と同じく、物語形式で書かれており、とても読みやすいです。基本的にはビジネス書ですが、勿論ビジネス以外にも応用できると思うので、「ビジョン」について知りたい方にはどなたにでもオススメできる本だと思います。

ストーリーの流れは以下のような感じです。しかし、ただのストーリーではありません。ビジョンとは何か、そしてそれをどうやって作り、伝え、現実のものとしていけばいいのかという流れで話が進んでいきますし、所々にまとめ的な記述も出てきます。

思いもよらない夫の浮気、そして突然の別れ・・・専業主婦として夫や子どものためにのみ生きてきた主人公は、シングルマザーとして実社会に身を投じることになる。そして勤め先で、のちにメンターとなる魅力的な男性と出会い、ビジョンをもつことのすばらしさに目覚めていく・・・。(訳者あとがきより)

そもそも、ビジョンって良く聞きますけど、何となくつかみどころがないような気がしませんか?主人公たちも、その状態からスタートしていきます。試行錯誤を繰り返しながら、ビジョンの姿をクリアにしていき、そして最終的に行きついた結論は、

ビジョンとは、自分は何者で、何をめざし、何を基準にして進んでいくのかを理解することである。

という定義です。ここには、三つの要素が含まれています。

  1. 有意義な目的
    上記の定義で言えば、「自分は何者で」の部分になります。これは言い換えれば「自分は何のために存在するのか」、つまり存在意義を問うている部分です。ここでのポイントは、目的の内容そのもの、つまり「what」も重要ですが、「なぜ」の部分、「why」も極めて重要であるという点でしょう。
  2. 明確な価値観
    順番は前後してしまいますが、上記の定義で言うところの「何を基準にして」という部分です。価値観とは、「自分は何を基準にして、どのように生きていくのか」という問いに答えるもの、あるいは目的を達成するために日々どのように過ごすのかのガイドライン、とされています。つまりこれは「how」の部分になります。
  3. 未来のイメージ
    主人公たちは「目的」「価値観」がビジョンを作る上で重要だと気付くのですが、それだけでは何か足りないと感じます。それは、それだけでは目指す方向がはっきりしないということでした。そこで出てくるのが「何をめざし」の部分です。言い換えれば、最終結果に到達した際にどのような未来が待っているかの明確なイメージです。イメージの力は強力です。特に会社のような複数人で構成されている組織では、目的だけでなく具体的な結果を共有しないと、なかなかコントロールが難しいですよね。これが「where」の部分になります。

さて、ビジョンの三要素が出揃いました。基本的にこれを踏まえればビジョンは作れます。しかし、自分が作ったビジョンが要件を満たしているかというチェックリストが本に書かれていました。非常に有用だと思ったのでご紹介したいと思います。

  • そのビジョンは、自分たちの使命をはっきりさせてくれるか。
  • そのビジョンは、日々の決断を正しく行っていくための指針になりうるか。
  • そのビジョンは、めざすべき未来を目に見えるような形で描いているか。
  • そのビジョンには永続性があるか。
  • そのビジョンには、ライバルに勝つだけというだけではない、何か崇高なものがあるか。
  • そのビジョンは、数字の力を借りずに、人々に活気を吹き込むことができるか。
  • そのビジョンは、あらゆる人の心と精神に訴えかけるか。
  • そのビジョンは、ひとりひとりに自分の役割を自覚させるか。

基本的にビジネス向けなので複数人の組織を想定していますが、「自分に」と読み替えれば応用が可能だと思います。

さて、ビジョンが出来てもそれを実行できなければ何の意味もありません。それを実行するに当たって、二つのヒントが紹介されていました。

  1. ビジョンから目をそらさないこと
  2. 一身を投げだす勇気を持つこと

一番目の意味するところは、ビジョンに基づいて行動しなさい、ということです。しかし、何があっても最初に決めたビジョンに固執しなさい、ということではありません。むしろ逆で、ビジョンを実現するための計画や、場合によってはビジョンそのものを変更した方がいいケースも出てくるでしょう。そんな時は、ビジョンを修正して、またビジョンに沿って行動するようにしましょう、ということだと思います。自分が根ざす軸があるのとないのとでは大違いですからね。変える必要があるなら、軸そのものを変えればいいのだと思います。

そして二番目は勇気です。何かを踏み出す際には必ず必要になりますよね。行動をうながす方法論については、過去のエントリでもいくつかご紹介してきました。しかしそれらは、「行動しやすくする」ことはできても、自分を強制的に行動に駆り立てるものではありません。やはり最後は「よし!」と決めて自分から動き出すことが必要だと思います。そこに必要なのは、飛び込む勇気なのでしょうね。

さて、ビジョンについてご紹介してきましたが、かなりざっくりと纏めてしまったので、それぞれが意味するところの詳細が気になる方や、話の「流れ」が気になる方は是非本書を手にとって読んでみてください。皆さんも是非、ご自分のビジョンを考え、行動に移してみてくださいね!