U理論

今日は、C・オットー・シャーマー 著の『U理論 過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術』という本をご紹介したいと思います。最近の僕は「人が変わる仕組み」について知りたいと思っていて、この本の副題には興味をそそられたので読んでみました。

実際に読み始めるまで、どんな内容の本なのか全く把握していませんでしたが、これはなかなか強敵でした。内容が600ページ近いというのもさることながら、言葉では説明しにくい部分を文章で説明しようとしていて、かなり難解でした。一度読んだだけでは100%腑に落ちた感覚になるのは難しいですが、何らかの問題意識を抱えていて、世の中を変えたいと思っている人にとってはとても重要なことが書かれている気がします。

また読み返したいと思っていますが、とりあえず一度読み終わった段階でこのU理論というものが何なのかを僕なりにまとめてみたいと思います。

この本は、現代に生きる僕たちが抱えている諸問題(個人的なものも、社会的なものも含めて)はどんどん複雑性を増しており、今までのやり方で解決することは難しい、という問題提起から始まっています。今までのやり方とは、「過去から学ぶ」というやり方。つまり、過去から学んでいるだけでは、今僕たちが抱えている諸問題を解決することができないということです。そうではなく、僕たちは「未来から学ぶ」必要があるのだと著者は言います。その手法を体系化したのが本書で扱っているU理論ということになります。

さて、この「未来から学ぶ」という言葉。いきなり難解ですね。それが何かを結論づける前に、U理論のプロセスを簡単に辿って行きましょう。

僕たちは何かを解決しようとするとき、「過去に似たようなことがなかったか」という観点で考えることが多いですよね。その過去のケースが上手くいったのならば、今回もそれと同じ方法で解決できるのではないか、こう思います。或いは、そんな思考すら通さず、習慣的に対応することさえあります。しかし、今僕たちのまわりで起こっていることは、あまりに複雑で状況も刻々と変わっているため、このような「過去から学ぶ」やり方では通用しません。

この「過去から学ぶ」という行為を、この本では「ダウンローディング」と呼んでいます。既に確立されている解決策を、そのままダウンロードして適用する、というイメージなのでしょう。このダウンローディングを止めるというのが、U理論のスタート地点です。

ダウンローディングを止めるということは、起きている現象をステレオタイプとして捉えるのではなく、「観察する」ということです。「ゼロベース」という言葉にも似ていますが、要は先入観を捨てることが重要です。先入観を捨てることで、今まで見えていなかったものが次々と見えてくるようになります。

しかし、あるものを「観ている」という状態は、自分がその内部にいないことを意味しています。つまり、自分が「観ている」ものは、自分とは区別された何かであり、自分の外で起こっていること。当事者意識を感じられていないんですね。しかし、問題を解決するためには、自分がその問題を引き起こしている状況の一部であることを「感じ取る」必要があります。つまり、視野が自分という個人から全体へと移る、これが次のステップです。

さて、ここまで来てやっと、「未来から学ぶ」ための準備が整ったことになります。「感じ取る」の次のステップを「プレゼンシング」と言いますが、この言葉の意味は「出現しようとしている未来の可能性を認識すること」です。この解釈は特に捉えどころが難しいので、かなり自分の解釈が入っていますが、つまり以下のようなことだと思います。

今までのプロセスで、ステレオタイプ的なものの見方を止め、自分を当事者として認めました。しかし、既にダウンローディングは止めてしまっているので、過去の解決策をそのまま持ち込むことはできません。つまり、問題をどう解決するかを「自分の頭」で考えなくてはならないのです。これは言いかえれば、「どのような未来を描き」、「その未来に対して自分がやるべきことは何なのか」を明らかにすることでもあります。

「どのような未来を描き」、「その未来に対して自分がやるべきことは何なのか」。この問いに答える為には、自分は何者なのか、をきちんと認識している必要があります。自分のことをよくわからなければ、どんな未来になって欲しいか、それに対して自分に何ができるか、はわかりませんからね。つまりここで、「思い描く未来像」と「自己の本質」が深い部分で繋がることになります。だいぶデフォルメしていますが、これが「未来から学ぶ」ということだと僕は解釈しました。

この「プレゼンシング」以降は、実際に行動に移していくプロセスです。出現する未来の可能性を元に具体的な未来像を構築し(「結晶化」)、試行錯誤を繰り返し(「プロトタイピング」)、最終的に実行に移していく(「実践する」)。それぞれに論点はありますが、もっとも分かりにくく、かつ重要なのはやはり「プレゼンシング」の部分でしょう。

なかなかすんなり入ってきにくいですが、U理論の概要はこんな感じです。この本では、難しい言葉も沢山出てきますが、このU理論が様々な観点から繰り返し説明されているので、なんとか読み進めていくことができます。実例なども数多く紹介されているので理解の助けになってくれると思います。

付け加えるなら、全部で21章まであるうちの20章までは理論的な説明がほとんどなので、「じゃあ一体どうすればいいの?」というストレスを抱えながら読むことになります。しかし、最後の章を読んで印象は一変しました。この章は「プレゼンシングの原則と実践」というタイトルなのですが、マニュアルのような形式でU理論を実践するためのステップが説明されています。これはとてもわかりやすく、実践の手引きとしても、理論の具体的理解にもとても役立ちます。

最初にも書きましたが、世の中を変えたい、組織を変えたい、自分を変えたい、という問題意識を持っている方にとっては、今までにない考え方が紹介されている良書だと思います。そして、直感的にこれは、これから先の時代を生きていくにあたってとても重要な考え方だと感じています。確かに読むのは大変ですが、特に組織や社会を変えたいと思っている方は是非読んで頂きたい一冊です。

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