コンセプトのつくりかた

今日は、玉樹真一郎 著の『コンセプトのつくりかた 「つくる」を考える方法』という本をご紹介したいと思います。ここ最近は読書はしているものの、訳あって心理学やら神経科学やらの小難しい専門書をひたすら読み漁っていました。そんな事をしているとかなり疲弊してくるので、ちょっと気分を変えて違うジャンルの本を手に取ってみました。読んでみると個人的にかなり面白かったので、是非共有したいと思います。

この著者は、大ヒットした任天堂のゲーム機「Wii」の元企画担当者が書いた本です。内容はタイトルの通りシンプルで、どうやってコンセプトをつくるかについて書かれています。コンセプトとは何か?ということについて著者は「まえがきのまえ」というページで以下の様に述べています。

広告やコンサルティング業界の人が振りかざす、小難しい道具?
何やらクリエイターに必要なアイデアとか発想とか?
…実は違います。
私たち誰もが、何かをするとき、生み出すときに最初に考えること。
それが「コンセプト」です。

何やらモヤっとしていて結局何が言いたいのかわからないでしょうか?実際、著者はこの「コンセプト」という言葉に色々な意味や思いを込めて使っています。何かを進めていく際に立ち返る場所、という意味でも使っていますし、世界を良くする方法、また自分と世界をつなぐもの、というように。後で僕なりの解釈はご紹介しますが、著者の真意は、是非実際に本書を読んで理解していただきたいと思います。

では、この本を読んで面白いと思ったこと、参考になったことをご紹介していきたいと思います。まず最初は、何と言っても極めて具体的にコンセプトの作り方を説明してくれている点だと思います。冷静に捉えれば、企画・アイデア発想法、特にブレインストーミングの手法をわかりやすく説明しているに過ぎないのかも知れませんが、僕が「参考になった」と感じたのは以下の点からです。

ブレインストーミング、これはアイデア出しをする時などに行う会議の手法なのですが、簡単に言えばとにかく制約を設けずに次々と自由にアイデアを出しまくる方法のことです。これを発散と言います。しかし、最終的にはその発散したアイデアを纏めないと収拾がつきませんので、もう出尽くしたな、と思ったら次はそれを収束させていきます。

僕は個人的に、ブレインストーミングの難しさは発散ではなく、収束にあると思っています。僕が不勉強なせいもあるでしょうが、今まで読んだ本の中で、ここまで収束のやり方を具体的に説明してくれている本はありませんでした。従ってブレインストーミングをやったけど収集がつかないよ!という悩みをお持ちの方は、とても参考になると思います。

この本を読んで面白かったこと、参考になったことの二つ目。それはコンセプトの作り方を、実際に「Wii」のコンセプトを作った時の例を挙げて説明してくれているところです。Wiiは家庭用ゲーム機の裾野を広げたと言っていいと思いますが、その製品のコンセプトがどのようにして作られたのか、それを追体験できるのはとても面白いと思います。特にゲーマーの方は「なるほど、そうだったのか!」と思う瞬間があると思いますよ!

そして三点目。それは著者が「コンセプト」という言葉に込めた思いに触れられたことです。著者は、明らかに辞書的な意味を拡張して「コンセプト」という言葉を使っているのですが、それはもはや自分の情熱、使命、アイデンティティに関わるほど深いものだと思います。

まず最初に強調されるのは、世界を良くするための指針、という部分です。もちろん、営利団体が行う事業はその背後に利益を出さなくてはならない、という宿命があるのですが、それよりも、どうやったらもっと世界が良くなるか、という思いがコンセプトには込められるべきなんだということを強く感じました。

それから、その「良さ」というものが既存の良さではなく、未知の良さであるべきだということ。既に誰もが価値を認めているような「良さ」ではなく、世の中の人が「おお、こんな良さもあったのか」と思うような、そんな未知の良さを世界に提案するために、著者の言うような「コンセプト」が不可欠なのだと思います。もちろん、既存の良さを追求していくという戦略もあり得るのですが、それをするには莫大なリソースが必要だよ、という現実的な視点も混ざっています。

そんなコンセプトを生み出すためには、方法論だけでなく自分の本質や根源から様々な思いを絞り出すことが重要です。この本を読んでいて、著者の言うコンセプト作りは、自分のアイデンティティを構築していく作業にとてもよく似ているなと思いました。

さて、ここでは大きく3つのポイントを挙げてみましたが、他にも参考になるポイントが沢山あると思います。文章も読みやすく、ゲームになぞらえた表現なども出てくるので、さらっと読めてしまいます。何か新しく行動を起こしてやろう、と思っている方には是非読んで頂きたいオススメの一冊です。勇気をもらえますよ。

ダイアログ・イン・ザ・ダークに行ってきました

今日は、読書ネタではなく、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」というワークショップに行ってきた感想を書きたいと思います。DIALOG IN THE DARK、暗闇の中での対話という意味ですが、皆さんは聞いた事があるでしょうか?

パンフレットによると、このワークショップは1989年にドイツで生まれ、世界全体で600万人以上の人が体験したそうです。日本では1999年以降、約85,000人の人が参加しています。どういう内容のものかについては、やはりパンフレットの概要説明がわかりやすいかと思いますので引用します。

参加者は完全に光を遮断した空間の中へ、何人かとグループを組んで入り、暗闇のエキスパートであるアテンド(視覚障がい者)のサポートのもと、中を探検し、様々なシーンを体験していきます。
その過程で視覚以外の感覚の可能性と心地よさを思い出し、そしてコミュニケーションの大切さ、あたたかさを再確認することになります。

僕が参加したのは、通常のワークショップではなく、ビジネスワークショップというものです。通常のワークショップは「楽しむ」ことを第一の目的として設計されていますが、ビジネス版では、体験を通して何を得たのか、という振り返りのワークがとても重要とされています。

さて、これから行かれる方のために詳細な内容については書きませんが、感想やこの体験を通して自分が得た学びについて書いてみたいと思います。

まず特筆すべきは、「完全な暗闇」という体験が、目の見える自分にとっては圧倒的だったことです。思い返してみれば、全く光のない場所であれだけの時間を過ごした経験はありません。目を開いていてもつぶっていても全く同じ、何も見えないのです。視覚を失った方が見ている世界とはこういうものか、と実感できましたし、その中を自由自在に動き回っていたアテンドの方が、とても頼もしく思えました。

さて、この暗闇がもたらしたもの。まず最初に気づいたのは、視覚以外の感覚が非常に研ぎ澄まされたように思えたこと。臭いや味覚はとても敏感に感じましたし、触覚・聴覚に至っては命綱です。杖から伝わってくる感覚、手の感覚や仲間同士で掛け合う声、明るいところでは当たり前と思っていることが当たり前ではなくなるため、安心や感謝といった気持がわき起こってきます。

次は心の壁についてです。声を掛け合わざるを得ない状況であるというのも勿論ありますが、不思議と暗闇の中では素直に発言したり、手をつないだりできました。僕は割とシャイな方だと思うのですが、どんどん発言している自分に気付いてびっくりしました。普段視覚から得ている情報、例えば相手の容姿、社会的地位、態度や醸し出す雰囲気などが如何に自分の言動に影響を与えているかがよくわかりました。

それからコミュニケーションの重要性についても学びました。コミュニケーションは信頼の上に成り立つと思いますが、暗闇の中ではそれが特に際立ちます。仲間を信頼しないと一歩たりとも前に進めないからです。そして信頼があっても、お互いに見えない中でのコミュニケーションはとても難しいです。「それ」「あれ」「こういう」などといった曖昧な表現は伝わりません。どうすれば相手に伝わるかという思いやり、これがコミュニケーションの基本だという当たり前のことに気付かされました。

同時に、聞く方の姿勢も重要です。相手が伝えようとしていることを如何に真剣に聞き、理解する努力をするか。これも思いやりです。この双方向の思いやりがあってこそ、真のコミュニケーションが成り立つのだと思います。

これはワーク中にとある男性とお話した内容なのですが、程度の差こそあれ、日常生活でも暗闇の中と同じことが起こっていると気付きました。それは、各人が持っている情報の質や量には差があるということです。例えば、上司が仕事を部下に与える時、断片を伝えただけでうまくいくでしょうか?情報の不足は、不安をもたらします。その気持ちがよくわかったので、このワークを通して何か一つキーワードを挙げるとしたら、という問いに対して僕は「共有」と答えました。

暗闇から出た後も、参加者の方の感想を色々聞きましたが、感じ方は本当に人それぞれでした。でも、皆さん確実に何か大きな気付きを得ていたように思います。暗闇がもたらす非日常感。とても得るものは大きかったですし、何よりもとても楽しめました。興味がある方は是非参加してみては如何でしょうか。