感情力 自分をコントロールできる人できない人

今日は、フランソワ・ルロール & クリストフ・アンドレ 著の「感情力 自分をコントロールできる人できない人」という本をご紹介したいと思います。著者は二人とも精神科医なのですが、一般の人向けに書かれていてわかりやすいです。また、文章から優しさのようなものが感じられるからでしょうか、読むと楽になれるような気がします。

さて、この本のテーマは「感情力」。感情力とは何かというと、感情の力をうまくコントロールする力のことです。この感情力、概念としてはEQ(感情知能)にとても似ているのですが、感情をうまく表現したり、それを踏まえて行動したりする「能力」にフォーカスするためにあえてこのような表現を使っているとのことです。本書では、以下の要素を「感情力」としています。

  • 怒りでも悲しみでも嫉妬でも喜びでも、自分がどんな感情を抱いているかに気づき、またそのことを率直に認める能力
  • 人間関係を壊すのではなく、コミュニケーションがうまくいく形で感情を表現する能力
  • 感情に突き動かされたり、反対に激しい感情のせいで何もできなくなったりするのではなく、感情をうまく利用して適切に行動する能力
  • 相手の感情を理解し、適切に反応する能力

先日ご紹介した「サーチ!」という本でもご紹介した通り、EQは自分を省みる能力、他者と共感する能力のことです。たしかに、感情力とEQはとても似ていますね。

感情と言っても様々な種類の感情があります。著者は、感情にはいくつかの基本的なものがあり(基本感情と言います)、それらが結びつくことで複雑な感情ができあがっていると言います。どの感情が基本感情にあたるかは諸説あるようですが、本書を読む限りでは、チャールズ・ダーウィンが唱えた「喜び」「驚き」「悲しみ」「恐怖」「嫌悪」「怒り」の6つが有力なようです。

ある感情が基本感情かどうかを見分ける基準は、いくつかあるようです。

  • 突然感じられること
  • 長く続かないこと
  • ほかの感情と区別がつくこと
  • 赤ん坊にもあること
  • 特有の身体的な反応を伴うこと
  • 普遍的な表情を持っていること
  • 同じ経験をしたら誰もが感じるということ
  • 類人猿にも同じ様な感情が見られること

簡単にまとめると、基本感情は「反応」であり、我々人間(とその仲間)が生まれつき持っているもの、という感じでしょうか。

この本では、基本感情かどうかに関わらず、重要だと思われる感情について1章ずつ取り上げています。その感情とは、「怒り」「羨望」「喜び、上機嫌、幸せなど」「悲しみ」「羞恥」「嫉妬」「恐怖」「恋愛」です。

それぞれの章では、それぞれの感情がどのようなものなのか、何の役に立つのか、どのような仕組みで生まれるのか、そしてその感情とどううまく付き合っていくか等について丁寧に解説されています。具体的な例を交えた説明なので、とてもわかりやすいです。

感情は勝手に湧きあがってくるので特に意識したことはありませんでしたが、進化論的に考えると「その感情が今の我々に残っているというこは意味がある」ということになります。

例えば「怒り」には戦う準備をさせるという役割と、威嚇という役割があります。怒りは覚えると筋肉が収縮し、心臓の鼓動が速くなるのですが、これは素早く動くための準備なのだそうです。また、「怒り」の表情は世界共通であり、これを知らせることで無用な戦いを避けることができます。特に野生の世界では、戦いは死に直結する可能性が高いので、怒っていると伝えることで抑止力となるわけですね。

このように考えると、感情には意味があるということがよくわかります。ポジティブな感情なら大歓迎ですが、ネガティブな感情はできれば味わいたくないものです。でも、例えネガティブな感情が湧きおこってきても、その背後にある「意味」を理解していれば、ちょっと冷静になれるかも知れませんね。実際、このようなアプローチはカウンセリングなどで使われる認知療法で使われています。

個人的には、何を幸せと感じるかは性格に関係しているのではないか、という部分がとても面白かったです。性格分析には以前ご紹介した「ビッグファイブ」という性格分析アプローチが出てきます。実際に当てはまるかどうかは別にして、自分の性格から目指すべき幸せを考えてみる、というのも面白いかも知れません。

この本は、特定の感情がコントロールできなくて困っている方はもちろん、「感情」そのものについて勉強したいと思っている方にもとてもオススメの一冊です。気になる方は是非読んでみてください!

「ありのまま」という才能―性格に隠された成功のヒント

今日は、ロブ・ヤン 著の「『ありのまま』という才能―性格に隠された成功のヒント」という本をご紹介します。著者略歴によると、著者は心理学の博士で、成功の心理学の権威として広く知られている人とのことです。原題は「Personality: How to Unleash Your Hidden Strengths」です。う~ん、大人の事情なのかも知れないですが、副題はそのままの方がよかったような。

この本では、人の性格を7つの特性に分けて考えます。以下がその7つなのですが、こうして眺めているだけでも自分はどちら寄りかな、というのがある程度判断できると思います。この本では、それぞれに対してチェックリストがついていて、質問に答えることで自分がどちら寄りなのかを判断することができます。

  1. 好奇心
    結果を出す「現実派」 vs 先を追い求める「ロマンチスト」
  2. ストレス抵抗力
    プレッシャーに弱い「心配性」 vs ものごとに動じない「楽天家」
  3. 社交性
    ひとりが好きな「孤高の人」 vs 大勢が好きな「社交の人」
  4. 自律性
    行動の前に考える「慎重派」 vs 衝動のままに生きる「奔放派」
  5. 共感力
    ズバリ本音の「率直派」 vs 相手に合わせる「気配り派」
  6. 学習意欲
    学ぶことが命「知識派」 vs 行動で学ぶ「実践派」
  7. 上昇志向
    現状に満足の「のんびり屋」 vs 意欲に満ちた「野心家」

以前ご紹介したビッグ・ファイブによく似ていますね。これらは特性なので、どちらかのタイプに必ず当てはまるわけではなく、どちらの傾向がより強いか、ということになります。場合によっては、どちらの要素も持ち合わせている、ということもあります。また、どちらかが良くてどちらが悪い、というものではなく、それぞれ長所と短所があります。

それぞれの診断結果の後には、タイプ毎にアドバイスが書いてあるのですが、これがとても参考になります。個性は個性として受け止め、どういうことに気をつければいいか、という観点でヒントが書いてあるので、受け止めやすいと思います。また、自分とは逆のタイプの説明を読むのも発見があって面白いですよ。

この本には「はじめに」の部分にとても大事なことが書いてあります。

わたしたちは、性格的な嗜好をある程度もって生まれてきます。科学者によると、性格の半分までは両親から受け継いだもの、つまり遺伝子レベルのもののようです。(中略)

けれども、遺伝子はストーリーの一部分にすぎません。遺伝子はあなたの「ルール」の原型、あるいはあなたという「台本」の最初の原稿をつくりますが、そのあとに受ける教育がその原稿に手を加えるのです。(中略)

大人になったわたしたちにとって、性格のもととなる台本がすべて役立つとはかぎりません。ときには、自分の望みを妨げるような行動を、性格が指示するからです。
ならば、台本は書きなおすことができるのでしょうか?
はい、書きなおすことができます。しかも、あなたはすでにそれを日々行っているのですよ。

この「人は変われる」というメッセージは、とても勇気づけられますね。

それと、この本のいいところは、診断では終わらないところです。最終章には「アクションプラン」という章があり、これから何をするか、を考えるステップが用意されています。行動しなければ何も変わらない、ということなのでしょうね。

さて、最後に。これは僕の個人的な意見ですが、この手の性格診断は活用方法がとても重要だと思います。結果を自分なりに消化して、今後の自分の生活・行動に活かしていく分にはいいと思うのですが、場合によっては、真実かどうかもわからない欠点や短所を「認知」し、「強化」してしまう可能性があると思っています。

性格診断は傾向を出すには良いと思いますが、それだけで人間の性格を表せるほど僕たちは単純ではありません。状況や精神状態等で大きく変わるのですから。診断結果は参考程度にし、それを踏まえて自分はどんな人間なのか、と自分なりに考えてみる必要があるのだと思います。

「変わりたい」と思っている方や、自分を知るためのきっかけが欲しい方にオススメの一冊です。機会があったら是非読んでみてくださいね!

パーソナリティを科学する―特性5因子であなたがわかる

今日ご紹介する本は、ダニエル・ネトル 著の「パーソナリティを科学する―特性5因子であなたがわかる」です。人間の性格を研究する学問である、パーソナリティ心理学の書籍です。

皆さんは性格診断テストをやったことがありますか?質問に答えていくと、最後に「あなたは~タイプです」というように性格を診断してくれます。世の中にはお遊び程度のものから、企業の採用試験に使われるものまで、性格診断が沢山ありますね。それだけ、皆が自分の性格を客観的に知りたがっている、と考えることもできます。

この本で扱うのは、特性5因子論と呼ばれる理論で、人の性格を5つの特徴で表すというものです。ビッグファイブとも呼ばれています。心理学関連の書籍を読むと、現在のところ性格を表現するための仮説としては主流である、と書かれていたりします。

さて、余談ですが人の性格を表すときの考え方に、類型論、特性論というものがあります。類型論は、あらかじめ性格をいくつかのタイプに分類し、それに当てはめていくという考え方。科学的根拠がないと言われてはいますが血液型による性格分類なんかは、わかりやすい類型論ですね。類型論はわかりやすい半面、大雑把すぎるという限界があります。人間の性格を少数のタイプに分けることなどできない!というわけです。

一方特性論では、人間の性格を特徴づける要素を「特性」としてあらかじめ定義しておき、人がそれらをどの程度持っているか(もしくは持っていないか)、と考えます。個々の特性の程度やその組み合わせは無限にあるので、人の性格を詳細に表現できる半面、全体像が見えにくい、などと言われているようです。

ビッグファイブは特性論の一つで、その名の通り5つの特性を定義しています。文献によって名前が微妙に違っていたりしますが、この本に書かれている内容をご紹介します。

  1. 外向性
    外向性がある、というと社交的なイメージを持つかも知れませんが、ここで言う外向性は少し違います。外向性のスコアが高い人は、低い人に比べて日常生活の中で、喜び、欲望、熱中、興奮といった「ポジティブな情動」を示すことが多いのだそうです。ポジティブな情動が多いため、それを獲得するような行動に出やすい、ということですね。
  2. 神経質傾向
    これは名前のイメージが少々悪いですが、外向性と逆の考え方です。つまり、ネガティブな情動をどれだけ持ちやすいかを表しています。不安や恐怖はそれをあらかじめ察知して避けるためにあると言われますが、神経質傾向のスコアが高い人は低い人に比べてその警報装置のアラームの感度が強い、と考えられます。
  3. 誠実性
    これも名前のイメージとは少し異なるのですが、どれだけ衝動を抑制することができるか、を表しています。誠実性のスコアが高い人は、自分をコントロールすることに長けている人であり、低い人は衝動的で、気の向くまま、意志が弱い、などと言えそうです。
  4. 調和性
    どれだけ他者の心の状態に注意を払い、それによって自分の行動を決定するかを表します。つまり、どれだけ人に共感できるかということですね。このスコアとEQ(共感指数)は強く関連しているようです。
  5. 開放性
    最後の一つ、開放性についてははまだわかっていないことも多く、少しわかりにくいです。「経験への開放性」とも呼ばれ、あらゆる種類の文化的、芸術的活動にどれほど関わっているかを表すようです。また、連想の広がりの度合いを示したりもするようです。確かに、天才的な芸術家は普通の人にない発想力を持っていそうですよね。

ひとつ重要な点を補足したいと思います。これらの特性は、スコアが高い=良いというわけではないということです。スコアが高いなりのデメリットのようなものもあるので、単純に良い・悪いではなく個性と考えた方がよいと思います。

ところで、なぜこの5つなのでしょう?ビッグファイブの歴史は、辞書に書いてある「人の性格を表す言葉」を全て調べ、分類していくという地道な作業から始まったようです。それらをベースに、統計的な分析、研究の蓄積を経て整理・統合され最終的に5つの特性に落ち着いた、ということのようです。

面白いのは、この5つの特性に関連している脳の領域や神経分泌物質などが見つかり始めているという点です。そう遠くない将来、ある程度正確に、機械的に人の性格を測れる時代がやってくるかも知れませんね。

この本によると、人の性格を決めるのは約半分が遺伝、あとの半分が人生初期に受けた様々な影響であるとされています。そして、僕たちはそれをくつがえすことはできないようです。では、人が自分の嫌なところを変えたいと思い、また成長しようと努力するのは無駄なあがきなのでしょうか?この本にはそれに対する一つの回答が書いてあります。

個々の人間のもつ特異性は、3つのレベルから考えることができます。一つはこのビッグファイブの特性のスコア。二つめは特徴的行動パターン。そして三つめがパーソナル・ライフストーリー。一つめの特性に関しては、前述の通り後から変えることはできません。では、あとの二つは何でしょうか。

特徴的行動パターンとは、例えば「外向的である」という特性を持っていたとしても、その表れ方は個人によって違う、ということです。そして、その外向性をどのように表現するかは、ある程度選択することができます。そしてパーソナル・ライフストーリー。これはつまり自分をどう見るか、ということです。アイデンティティと言ってもいいですが、これについては僕たちは様々な方法で見直したり、作り直したりすることができます。

特性は変えられないとしても、その特性をどのように活かし、そして自分をどう定義するかは自分次第だということです。僕はこの考え方がとても気に入りました。人間の性格という身近なようでよくわかっていないものをわかりやすく解説してくれるこの本、それほど難しくないので興味のある方は是非読んでみてください!