ダイアログ・イン・ザ・ダークに行ってきました

今日は、読書ネタではなく、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」というワークショップに行ってきた感想を書きたいと思います。DIALOG IN THE DARK、暗闇の中での対話という意味ですが、皆さんは聞いた事があるでしょうか?

パンフレットによると、このワークショップは1989年にドイツで生まれ、世界全体で600万人以上の人が体験したそうです。日本では1999年以降、約85,000人の人が参加しています。どういう内容のものかについては、やはりパンフレットの概要説明がわかりやすいかと思いますので引用します。

参加者は完全に光を遮断した空間の中へ、何人かとグループを組んで入り、暗闇のエキスパートであるアテンド(視覚障がい者)のサポートのもと、中を探検し、様々なシーンを体験していきます。
その過程で視覚以外の感覚の可能性と心地よさを思い出し、そしてコミュニケーションの大切さ、あたたかさを再確認することになります。

僕が参加したのは、通常のワークショップではなく、ビジネスワークショップというものです。通常のワークショップは「楽しむ」ことを第一の目的として設計されていますが、ビジネス版では、体験を通して何を得たのか、という振り返りのワークがとても重要とされています。

さて、これから行かれる方のために詳細な内容については書きませんが、感想やこの体験を通して自分が得た学びについて書いてみたいと思います。

まず特筆すべきは、「完全な暗闇」という体験が、目の見える自分にとっては圧倒的だったことです。思い返してみれば、全く光のない場所であれだけの時間を過ごした経験はありません。目を開いていてもつぶっていても全く同じ、何も見えないのです。視覚を失った方が見ている世界とはこういうものか、と実感できましたし、その中を自由自在に動き回っていたアテンドの方が、とても頼もしく思えました。

さて、この暗闇がもたらしたもの。まず最初に気づいたのは、視覚以外の感覚が非常に研ぎ澄まされたように思えたこと。臭いや味覚はとても敏感に感じましたし、触覚・聴覚に至っては命綱です。杖から伝わってくる感覚、手の感覚や仲間同士で掛け合う声、明るいところでは当たり前と思っていることが当たり前ではなくなるため、安心や感謝といった気持がわき起こってきます。

次は心の壁についてです。声を掛け合わざるを得ない状況であるというのも勿論ありますが、不思議と暗闇の中では素直に発言したり、手をつないだりできました。僕は割とシャイな方だと思うのですが、どんどん発言している自分に気付いてびっくりしました。普段視覚から得ている情報、例えば相手の容姿、社会的地位、態度や醸し出す雰囲気などが如何に自分の言動に影響を与えているかがよくわかりました。

それからコミュニケーションの重要性についても学びました。コミュニケーションは信頼の上に成り立つと思いますが、暗闇の中ではそれが特に際立ちます。仲間を信頼しないと一歩たりとも前に進めないからです。そして信頼があっても、お互いに見えない中でのコミュニケーションはとても難しいです。「それ」「あれ」「こういう」などといった曖昧な表現は伝わりません。どうすれば相手に伝わるかという思いやり、これがコミュニケーションの基本だという当たり前のことに気付かされました。

同時に、聞く方の姿勢も重要です。相手が伝えようとしていることを如何に真剣に聞き、理解する努力をするか。これも思いやりです。この双方向の思いやりがあってこそ、真のコミュニケーションが成り立つのだと思います。

これはワーク中にとある男性とお話した内容なのですが、程度の差こそあれ、日常生活でも暗闇の中と同じことが起こっていると気付きました。それは、各人が持っている情報の質や量には差があるということです。例えば、上司が仕事を部下に与える時、断片を伝えただけでうまくいくでしょうか?情報の不足は、不安をもたらします。その気持ちがよくわかったので、このワークを通して何か一つキーワードを挙げるとしたら、という問いに対して僕は「共有」と答えました。

暗闇から出た後も、参加者の方の感想を色々聞きましたが、感じ方は本当に人それぞれでした。でも、皆さん確実に何か大きな気付きを得ていたように思います。暗闇がもたらす非日常感。とても得るものは大きかったですし、何よりもとても楽しめました。興味がある方は是非参加してみては如何でしょうか。

媚びない人生

今日は、ジョン・キム 著の「媚びない人生」という本をご紹介したいと思います。本屋でふと見かけた本なのですが、帯に「従順な羊ではなく、野良猫になれ」と書かれていて、何だかおもしろそうなので購入し読んでみました。

著者のジョン・キムという人は、慶應大学の准教授で、メディア・コミュニケーション研究所というところでゼミを持っているらしい。このゼミは、視察に訪れたハーバードの教授をして、「ハーバードやエールよりも上じゃないか」と言わしめたほど厳しく、レベルが高いそうです。

本書は、そのゼミ生たちが卒業する際にはなむけの言葉として送っている最終講義「送る言葉」の内容が原点となっているそうです。内容はこれから社会に出ていく学生たちに「最後にこれだけは伝えたい」というメッセージのようなものになっています。従って、一つの論点について順序立てて書いた本というよりは、様々なメッセージが次々と登場する、という構成ですね。

これから社会に向けて巣立っていく学生向けということなので、社会人からしてみれば当たり前、と思う部分も多くあります。しかし、ハッとさせられる部分、頭ではわかっていても実践できていない部分が多々あることにも気づかされました。そして何より、内容がとても熱い。心からのメッセージであることがわかりますし、やはり教育者なのでしょう、厳しさの中にも愛情が感じられます。

そんなこの本、いくつかの論点をピックアップしてご紹介しましょう。まずはプロローグから。著者は「強さ」だけが人間を独立した存在に導く、と説きます。その強さとは・・・

  • お金とか名誉とか外面的な意味での強さではなく、内面的な強さだ。
  • 自分自身の尊厳に対する最大限のリスペクトを払える強さだ。
  • どんなに辛い逆境でもいつでも受けて立つ気概を持てる強さだ。
  • 自身のすべての行動に対し結果に対する全責任を自分で負う決意の持てる強さだ。
  • 何事にも縛られない何事にもとらわれない、そして物事をありのままの状態で受け入れられる大きくそして動じない強さだ。
  • 自分がこの世に存在する間に起きる全ての出会いや出来事は奇跡であると信じ、それが持つ意味を省察できる強さだ。
  • 他者の存在に対する最大限の尊敬を払うとともに他者の感性、思考、行動に対する深い理解のために努力をする。そして他者の不完全性に対し海のような包容力を持てる強さだ。
  • 愛する人のためなら世の中を敵に回せる強さだ。
  • 生きるすべての瞬間を人生の最後の瞬間になるかもしれないという緊張感を持ち、その瞬間に対する全ての審決を注ぐことのできる、そしてその緊張感や集中力を死ぬその最後の瞬間まで持続できる強さだ。

う~ん、熱い。改めて眺めてみると、このプロローグにメッセージのほとんどは集約されていると言っていいかもしれません。

「本当の自分」という言葉があります。本当の自分というのは何なのか、そんなものが本当にあるのか、と僕は思っていました。それに対して著者は、とてもわかりやすく説明してくれています。著者によれば、本当の自分とは、まだ社会性を持っていない幼児の自分だと言います。人間はそこから成長する過程で、周りに評価されたり形容されたりしながら、社会的に生きていきやすい自分を作り上げていきます。

社会に迎合して生きていくということは、不安を消し去ることでもあるそうです。確かに、誰かから評価されるように生きていけば、少なくともその人達からは支持されるわけで、安心です。しかし、そういう生き方こそが、人間を弱くしていると書かれています。むやみやたらに反骨精神を持てといっているのではなく、自分の軸を確立して、そして自分のモノサシで社会を測り、自然体で生きていくということが重要なのだと思います。

この本の中でも、社会的な「常識」は疑ってかかれ、という趣旨の事が書いてあります。そういった常識は非常に相対的なものであり、立場によって、時代によって違ってくるものです。このような常識というものは改めてその意味を考える必要がないので便利ではあるものの、ただ一つの普遍的な真実などというものは存在しない、あるのは複数の社会的な真実だけだ、と語られています。

何かに挑戦する時は、こういった「常識」に惑わされることなく、自分の信じた道を貫くことが重要ですね。本書にも、「結果に対する全責任を負う決意に基づいた選択は、常に正しい」と書かれています。その結果、自分が信じる「社会的な真実」を構築することだってできるのですから。

それと、就職活動について、とても面白い意見が書かれていました。

しかし、認識しておかなければいけないことがある。それは、学生の就職活動は、社会を知らないままに行われているということだ。社会に出たことがないのに、業界や企業を選ばなければならなかった。残念ながら、社会についてはわかっていないのだ。それは認めなければいけない。
そしてもうひとつは、自分自身について、まだわかっていないということである。就職活動で、自己分析はしたかもしれない。しかし、社会に出て、実際に働いた経験はない。ある仕事をしたときに、本当の自分がどんな反応をするのか、実はまったくわかっていないかったのだ。

なるほど。これは本当にそうですね。就職してから、思っていたのと違う、とギャップに悩まされる学生も少なくないのだと聞きます。しかし、それはある意味当り前と言えます。自分のことも相手のこともよくわからない状況で選んだんですから。本当の就職活動は、5年後にもう一度すればよい、というのが著者の主張です。大事なのは、その時までに本当にやりたいことをはっきりさせ、それをやるための実力をつけておくことなのだそうです。

この本を読んでいて、僕個人は「居心地の良さ」という言葉にハッとさせられました。居心地の良い状態というのは、ある意味警戒すべき状態である、と書かれています。これは、居心地によい状態に居座り続けるということは、新しい挑戦を怠っている可能性がある、ということを指しています。必要だとはわかっていても目をそらしていること、やろうやろうと思っているけどなかなか踏み出せていないこと。そういうものを一度棚卸ししてみようと思っています。

さて、如何だったでしょうか。学生向けとは言え、既に社会に出ている人が読んでも学ぶべきことは沢山あると思います。厳しくも優しい著者のメッセージに、背筋が伸びるような気持ちになりますよ。機会があれば是非読んでみてくださいね!

MI:個性を生かす多重知能の理論

今日ご紹介する本は、ハワード・ガードナー 著の「MI:個性を生かす多重知能の理論」です。過去のエントリでも「自分らしさ」、つまり個性のお話が出てきましたが、今日は個性を心理学・教育という観点から考えてみたいと思います。

この本はMI理論(Multiple Intelligences:多重知能)という理論を解説した本で、なかなか読みごたえのある本でした。というか、僕はかなり気合を入れないと読めませんでした。が、とてもおもしろいことが書いてあるので、ざっくりと僕なりに纏めてみます。

IQという言葉は有名ですよね。これは知能指数のことで、知能を測定する尺度です。IQが高い人は、知能が高いとされてきました。他にも、EQ(心の知能指数)、SQ(社会性の知能指数)等が一時期とても話題になりました。

本書の著者は、知能は一つではないと言います。

多くの心理学者が持っていて、われわれの言い回しのなかにもしっかり定着している信念、知能は単一の能力であり、全面的に「賢い」か「愚か」のどちらかである、という信念に挑戦したのである。

では、どんな知能が存在するのか。現時点では8つあります。「現時点で」というのは、まだ見つかっていない知能が今後見つかる可能性があるからだそうです。その8つを下記に紹介します。

  1. 言語的知能
    言葉に対する感受性、言語を学ぶ能力、言語を用いる能力
  2. 論理数学的知能
    問題を論理的・科学的に分析・究明したり、数学的操作をする能力
  3. 音楽的知能
    音楽の演奏や作曲、鑑賞のスキル
  4. 身体運動的知能
    体全体や身体部位を使う能力
  5. 空間的知能
    空間を認識する能力や、パターンについての能力(※)
    ※ 画家や彫刻家、建築家に重要な能力
  6. 対人的知能
    他人の意図や動機づけ、欲求を理解して他人とうまくやっていく能力
  7. 内省的知能
    自分自身を理解する能力
  8. 博物的知能
    様々なものを見分け、区別したり分類したりする能力

他にも候補はあるそうですが、現段階ではこれだけです。「知能」と見なすための条件も本書には記載してあるので、興味のある方は読んでみてください。

さて、これが一体何なのか?まず、人間にはこれだけの数の知能(能力、才能)が存在していて、それぞれの知能は、個人の遺伝的資質と環境によって生じるということ。そして、私たちの知能の組み合わせはそれぞれ独自である、ということ。つまり、この組み合わせが個性になるのでしょうね。

こういう話を聞くと、自分にどの知能がどれだけあるのか知りたくなりますが、それはなかなか難しそうです。これら全ての能力を簡単に測定することができないからです。また、評価できたとしても、この人は~が苦手だ、などのラベル付けをしてしまうリスクも指摘しています。

では、この理論をどんなことに活かせるのでしょうか。本書では、教育現場や企業などでMI理論をどう活かせるかが紹介されています。例えば教育。現在主流の教育方法は画一的な教育です。つまり、全ての個人は同じように扱われるべきだ、という考え方です。しかし、一旦個性を認めると、これは公平なようで公平ではありません。これを解決する方法として、「個人ごとに設計された教育」の可能性を示唆しています。

また、企業でも同じようなことが言えます。従業員には個性があり、部署・役職によって求められる能力も違う。であれば、従業員それぞれの個性をきちんと把握し、能力をどう活かすか、どう伸ばすか考えることは有益なはずです。

なんとなく言いたいことは伝わったでしょうか。もしもっと掘り下げて読んでみたい、という方は是非読んでみてください。