ユーザーイリュージョン

今日は、トール・ノーレットランダーシュ 著の「ユーザーイリュージョン 意識という幻想」という本をご紹介したいと思います。著者はデンマーク人で科学ジャーナリストの人物。この本のデンマーク語版は13万部(人口比で換算すると、日本では250万部相当)も売れ、以来8ヶ国で翻訳・出版されたということです。

500ページを超える大書で、価格も4,200円とかなり読み応えのある本です。僕は以前から読みたいと思っていたのですが、幸運にも近くの図書館で見つけることができたので読んでみることにしました。

この本の主題は「意識」です。タイトルにユーザーイリュージョンとありますが、これはパソコンのユーザーインターフェースを考えるとわかりやすいでしょう。パソコンの画面にはデスクトップがあり、フォルダやゴミ箱が配置されています。しかし、実際にそこにフォルダやゴミ箱があるわけではありませんよね。意識も同じだということです。イリュージョン(幻想)とある通り、意識とは幻想、錯覚なのだというお話です。

この考え方自体は以前にも神経科学の本で読み、既に知っていた論点なのですが、本書はそれをものすごく掘り下げていったという感じです。また、扱っている分野も極めて多岐にわたります。始めて聞くような分野の話も沢山あり、僕も正確に把握できていないので訳者あとがきから引用してみましょう。

さて、本書「ユーザーイリュージョン」だが、著者の構想の雄大さと知識・調査範囲の広さには圧倒される。物理学、熱力学、統計力学、情報理論、サイバネティックス、心理学、生理学、生物学、哲学、社会学、歴史学、宗教、倫理と、様々な分野に話がおよび、カオス、フラクタル、エントロピー、ブラックホール、複雑系、ガイア、「外情報」、「私」、「自分」といった用語が飛び出す。

本当に、著者の守備範囲の広さには圧倒させられます。情熱というか、この本に対する思い入れが伝わってきます。それでいて、難解すぎることもなく、文系の僕でも最後まで読み切ることができました。扱っている話題が話題なので、決して読みやすい本とは言い難いかも知れないですけどね。ただ、知的好奇心をこれでもかと刺激してくるので、なかなか良いペースで読めたと思います。

さて、構成を見てみましょう。本書は4部構成になっていて、メインとなる「意識」について書いてあるのは2・3部です。1部は主に熱力学、情報理論について書かれており、4部ではガイア、カオス、フラクタルなどが紹介され、結びへと繋がります。手っ取り早く「意識」についての話を知りたい方は、2・3部だけを読んでも十分に楽しめる内容だと思います。

では、この本で僕が学んだこと、なるほどと思った論点の中からいくつか紹介したいと思います。

まず、「情報」について。通常、ある物事についての情報を誰かに伝えようとする際、その物事について「そのまま」伝えるというのは難しいですよね。縮尺が1/1の地図を作るようなものです。普通は膨大な情報の中から、伝える必要のない情報を捨て、纏め、編集して伝えるということをします。この本によれば、実際に伝えられた情報そのものはたいして重要ではないのだと言います。重要なのはその情報が発信される前までに、どれだけの情報が捨てられてきたか、それが情報の深さを表しているのだと。

これは、僕たちの通常の感覚には反します。情報量が多い、といった場合、伝えられるメッセージそのものの量が多い、という風に解釈しますが、情報理論では捨てられた情報の量で情報量を計るようですね。

この考え方を知って個人的に思ったのは、情報が氾濫している昨今で、如何に情報を捨てるかということの重要性は、どんどん高くなってきている気がします。膨大な情報の中から取捨選択し、自分なりにどう理解するのかが重要ですよね。仕事で何かを調査する場合などでも、調査した資料をそのまま提示しても、何も伝わりません。その中に何らかの意味を見出し、メッセージとして集約する作業が必要になります。

続いて話は「コミュニケーション」へと移ります。上記の考え方で行けば、伝えられるメッセージは、既に大量に情報が処分されたものである可能性が高い。なのに、何故伝わるのか、という問題です。これを考えるために、この本ではコミュニケーションのプロセスが紹介されているのですが、なるほどと思いました。

まず最初に、発信側が考えます。何かの経験や感情、記憶などを集約しメッセージを作る過程で沢山の情報が捨てられます。充分に集約されると、最後に何かしら口に出して言える言葉が残ります。これが会話を通して相手に伝わります。伝えられる側では、伝わってきた言葉に込められた意味を明らかにするために頭の中で解きほどかれます。集約→伝達→展開、というのがコミュニケーションなのだ、という考え方ですね。

物事を伝えるには如何に集約するか、物事を理解するには如何に展開するか、という考え方はとてもわかりやすいと思いました。集約前の情報と展開後の情報が似たようなものになったとき、「伝わった」ということになります。

さて、この辺りから意識の話に入ります。僕たちの無意識は、日々膨大な情報を処理していると言われます。そのうち、意識の上るのは100万分の1だとか。実際に僕たちの行動の大部分は無意識のうちに行われていると言います。それ自体も驚くべきことなのですが、意識は、それだけの情報をリアルタイムに捨てていると考えることができます。それだけの情報処理をするのには時間がかかるはず、ということで本書のテーマである「0.5秒」という内容に入っていきます。

この0.5秒という数字、人が行動しよう!と意識する0.5秒前に脳の中では既に行動を開始する脳波が出ている、という実験や、人が何かを知覚する際、刺激より0.5秒遅れて自覚する、という実験から導き出されたものです。しかし、何か刺激を受けると、僕たちは即座に反応しますよね。これは、脳が時間の繰り上げ調整を行って、リアルタイムに経験しているようにしているためにそう感じるのだそうです。じ、時間の繰り上げ調整!?

意識や脳に関する本を読んでいると、こういう刺激的な内容がどんどん出てくるんですよね。この本も例外ではありませんでした。錯覚の話なども出てきますが、結論として導かれるのは、意識というのはユーザーイリュージョン(つまり幻想)であって、僕たちは「ありのままの世界」を経験しているわけではない、ということになると思います。

こういう話を聞いてどのように解釈するのかは人それぞれだと思いますが、訳者あとがきに、それに関する著者の主張がうまくまとめられているので、それを引用しておきたいと思います。

そこで、人間は意識がイリュージョンであることを自覚しなければならない。意識ある「私」と無意識の「自分」の共存が必要だ。「私」が自らの限界と「自分」の存在を認め、「自分」を信頼し、権限を委ねることが「平静」の鍵となるというのも、理にかなっている。

さらに、本文で僕が気に入った一節も。

人はお互いについて、意識が知っているよりはるかに多くを知っており、またお互いに対して、意識が知っているよりはるかに多くの影響を与え合っているからだ。人間はなんとしても、自分が身体の芯から正しいと思うことをやらなくてはいけない。なぜなら、その効果は私たちが意識しているより大きいからだ。
私たちは自分の行動の主導権を意識に委ねてはならない。意識を働かせ、熟慮したうえで、最も適切だと思えることだけを実行するようではいけない。直感に従って行動すべきだ。

如何でしょうか。無意識の存在を認め、信頼し、ある程度委ねるべきだ、という主張がなされていますね。無意識も含めて「自分」なのだという認識を持ち、無意識の反応である直感を信じろということなのでしょう。

自分のことは全て把握しているというのは、少々思い上がりなのかも知れませんね。自分についてでさえ、知っているのは一部分であるし、知らない部分も含めて自分なのだから、どちらの自分も喜ぶような生き方を目指したいものです。そういう生き方が出来た時、著者の言う大きな「効果」が生み出せるのかも知れません。

この本は纏めるには内容が充実しすぎていますし、僕が無知な故に間違って解釈している部分もあるかと思います。こういう内容に興味を持たれた方は、是非本書を手にとって読んでいただけたらと思います。色々なことを考えさせてくれると思いますよ!おすすめです。

なぜビジョナリーには未来が見えるのか?

今日は、エリック・カロニウス 著の「なぜビジョナリーには未来が見えるのか? 成功者たちの思考法を脳科学で解き明かす」という本をご紹介したいと思います。著者はウォールストリートジャーナルやニューズウィークなどで活躍しているジャーナリスト。脳科学の棚にあった本ですが、専門書ではないのでとても読みやすいです。

さて、「ビジョナリー」とは何でしょうか?将来を見通す力、つまりビジョンを持った人のことをビジョナリーと呼んでいるようです。ただ、ビジョンを持っているだけでなく、そのビジョンを実現するためにはどんなことも厭わない、そんなニュアンスも含まれています。この本に出てくるビジョナリーは、ヴァージングループのリチャード・ブランソン、アップルのスティーブ・ジョブズなど、いわゆる成功者と呼ばれる人たちです。

今まで、彼らの成功の秘訣を解き明かそうとした本は沢山ありましたが、この本の面白いところはそれを脳科学の観点からやろうとしたことだと思います。脳科学は近年急激に進歩し、様々なことがわかってきています。「はじめに」では以下のように語られています。

とりわけ、脳が「ビジョンをもたらす装置」であるという発見が興味深い。脳には元々、私たちの思考に「像」をもたらし、実在しないものの青写真をつくる機能が備わっている。また、脳には顕在意識で解決できない問題を無意識下で解決しようとする傾向があることや、絶えずパターンを探し求めていること、自分を取り巻く世界をつねにつくり変えていることも明らかにされつつある。

脳が「ビジョンをもたらす装置」という考え方は、とても面白いですね。確かに僕たち人間は、まだ現実化していない自分の考えを、想像力を使ってありありとイメージすることができます。成功者と言われる人たちが、そんな不思議な装置である脳をどのように使っていたのか、とてもわくわくしながら読むことができました。

この本では、ビジョナリーが優れている点を以下のように挙げた上で、それらを脳科学的に見るとどういうことなのか、という考察が加えられています。

  1. 発見力
    僕たちの脳は、常に「パターン」を探していると言います。日々膨大な情報に晒されている脳は、物事をパターン化することで、効率良くものを記憶しているのです。何かを発見するということは、このパターンを見つけることに他なりません。ビジョナリーは、普通の人がなかなか見つけられないパターンを見つけることに長けているのだと言います。しかし、彼らは存在しないものを見ているものではなく、目の前にあるものを見ているだけなのだ、という指摘にはちょっと勇気づけられます。
  2. 想像力
    脳の研究から、想像で描いた像と、実際に物や人を見た像は、どちらも脳内の同じ場所で生み出されると言います。つまり、想像力が生みだす像は、実際に目で見たものと同じくらいリアルに感じられるということでしょう。ビジョナリーには、これから実現しようと思っているアイデアが「見えていた」と言います。そのためには、ただ寝そべって頭の中で考えるのではなく、現実世界に出て行って、様々なことを自ら経験することが大事だそうです。
  3. 直観
    直観については以前からこのブログでもご紹介していますが、直観とは無意識の声です。何かを決断する時、無意識が大統領、顕在意識は報道官である、という例えが出てきますが、無意識の力は普段僕たちが意識しない間にもずっと働いていて、それが直観という形で浮かび上がってくるということですね。
    しかし、直観が常に正しいわけではありません。間違ったパターンにとらわれることもあります。しかし、ビジョナリーは、自分の直感が正しいのか間違っているのかを判断できると言います。それは、実践で経験を積み洞察力を鍛えているから、ということのようですね。
  4. 勇気と信念
    脳には、目的意識を背後から操る神経伝達物質があるそうです。それがドーパミンです。ドーパミンは、人にやる気を起こさせ、目的を魅力的なものに思わせる働きがあるそうです。また、新しいパターンを見つけることを促す作用もあるのだとか。
    ビジョナリーは、高い目的意識を持っています。おそらく、ドーパミンが多い放出されているのではないでしょうか。そう考えると、ある意味で目標に向かって突き進まざるを得ない「達成依存症」と言えなくもないかもしれませんね。そして、高い目的意識の背後には、何かを「よりよくしたい」という強い情熱があることも合わせて指摘されています。
  5. 共有力
    たとえビジョナリーであっても、一人で何かを成し遂げることは難しいでしょう。彼らは、人を巻き込むのが得意なのです。彼らが熱意を持っているのはわかりますが、何故人は巻き込まれてしまうのでしょうか。著者はミラーニューロンが関係する可能性が高い、と述べています。ミラーニューロンは、他者の感情を自分の感情として感じるニューロンのことです。つまり、彼らはミラーニューロンを通じて熱意を他者に感じさせることが得意だということなのでしょう。偽りのない、自分の心の奥底から湧き出るありのままの情熱が人を動かす、これはいわゆるカリスマ性の正体かも知れません。

  6. 成功するかしないか、そこに運の要素はつきものです。ビジョナリーは運がいいようです。しかし、運をコントロールすることはできるのでしょうか?どうやらこれは、決してあきらめない、チャンレンジする機会を増やす、ということが関係していそうです。そして、最終結果をコントロールすることはできなくても、ここに挙げたような様々な能力を使って一回一回のチャンレンジの精度を上げることもできるのです。

さあ、如何だったでしょうか?脳は大人になっても成長を続けると言います。こういったことを取り入れれば、ビジョナリーになれるかも知れませんね!本書には他にも、「ビジョンを曇らせるもの」「ビジョナリー気取りの誤算」「ビジョンを習得することは可能か?」など興味深い論点が用意されています。ビジョナリーと言われる人たちのエピソードが多く含まれているので、読んでいてとても面白いですよ。機会があれば、是非読んでみてくださいね!

人生の科学 「無意識」があなたの一生を決める

今日は、デイヴィッド・ブルックス 著の『人生の科学 「無意識」があなたの一生を決める』という本をご紹介したいと思います。著者であるデイヴィッド・ブルックスはニューヨーク・タイムズのコラムニスト。タイトルに「科学」とついてはいるものの、科学者が書いた本ではありません。

「謝辞」にも書いてありますが、著者は政治や政策、社会学や文化などの執筆を専門としている人です。本書では心理学や神経科学についての記述が多く出てくるのですが、それはもともとは「趣味」なんだとか。ジャーナリストがこのような本を書く「危険性」は承知しているが、近年の心理学、神経科学の成果は素晴らしく、それをどうにか一般の人に分かりやすく伝えたかった、ということのようです。

ここについては僕も同意見で、「人間」を考える上で最近の心理学や神経科学の研究は本当にためになるものだと思います。惜しむべきは、それらが本当の意味で実生活に生かされていない、ということだと思っています。ジャーナリスト、つまり世の中の人に伝える役割の人間として、「どうにかして伝えたい!」という思いがあったのだと思います。

本書は架空のストーリーという形で描かれています。別々の二人の人物が生まれ、出会い、共に人生を生きていくストーリーです。彼らの人生に起こる出来事について、心理学、神経科学はもちろん、経済学や哲学など、様々な観点からの考察が書かれています。著者は、「このような手法を採ることにしたのは、わかりやすいし、実感が伴う」からだと語っています。

読み終えた率直な感想は、人間というものが如何に複雑な生き物か、ということです。そして、僕たちが生きていく上で「無意識」がどれだけ重要な役割を果たしているのか、という著者の主張が、ストーリーを通して読むことで実感に近い形で理解できました。その点では、著者の試みは成功なのだと思います。

ちなみに、このストーリーの登場人物が送ったような人生が「幸福な人生」のモデル、というわけではありません。ある種の「成功観」のようなものを押しつける本でもありません。僕がこのストーリーの主人公のような人生を送りたいかと言われればちょっと疑問ですし、自分ならばこうする、という場面も沢山ありました。読者が注目すべきはストーリーの流れではなく、その裏側で何が起きていたのか、という考察だと思います。

そういう観点でこの本を読むと、「人生」というものについてこれほど包括的に語っている本はなかなかないのではないか、と思います。各論は専門書でよく出てくる話が多いので目新しさ自体はあまりないですが、それらが人生のどんな時に起こり、その後の人生にどんな影響を与えていくのか、という「流れ」や「つながり」がストーリーで語られることによってよく分かりました。

本書には様々な知見が登場します。その中で全体を貫くテーマは、何と言っても「無意識」の持つ力についてでしょう。

例えば人は何かを決断する時、「意識的に」決断していると思っています。しかし、実は無意識の内に既に決断は下されていて、後から意識に伝わる、ということがわかってきたようです。つまり、いくつかの選択肢があった時、無意識は感情という形でそれぞれの選択肢の価値を決めます。理性は、その価値の高いものを選ぶことになります。そういう意味では、意思決定の主役は理性ではなく感情で、その裏には大きな無意識のシステムが広がっている、と捉えることもできるでしょう。

これは無意識に関する論点のほんの一部でしかありませんが、このような無意識のシステムが、どういう過程を経て作られるのか、主人公たちの成長を追いながら解き明かしていく様は、なかなか面白いです。

そしてもう一つのテーマは、人間は社会的な生き物である、という主張だと思います。この点について、以下のように書かれています。

人間はもちろん生物である。生物である以上、その誕生についてあくまで生物学的に説明することはできる。受胎、妊娠、誕生というプロセスを経て産まれてきたわけだ。ハロルド(※ 主人公の名前)もそうだ。しかし、人間はそういう生物学的なプロセスだけではできあがらない。人間、特に人間の本質と呼べる部分ができるまでには、他の人間との関わりが必要になるのだ。

人間の人間らしさは、他の人間の影響なしには作られないということですね。

最後に、僕がなるほどと思った「合理主義の限界」という論点をご紹介しましょう。科学の限界と言ってもよいでしょう。科学的なアプローチで用いられる方法では、物事を小さな要素に分けて考え、それらの総和として全体を説明します。しかし、このアプローチで説明できないシステムがあります。それが「創発システム」と呼ばれるものです。個々の要素が複雑に関係しあい、全体が部分の総和以上になるシステムのことなのですが、人間もまた「創発システム」なのでしょうね。科学的に検証されていることはとてもわかりやすいというメリットがありますが、同時に限界もあるということを知っておいた方がいいのかも知れません。

さて、前述した通り、本書はとても包括的な本です。書かれている内容をまとめることはおろか、論点を書き出すだけでもものすごい量になってしまうと思います。そういう理由で一部の紹介に留めました。詳しい内容は、皆さん自身で確かめてみることをおすすめします。気になった方は、是非読んでみてくださいね!

ハーバード流 自分の潜在能力を発揮させる技術

今日は、マリオ・アロンソ・ブッチ 著の「ハーバード流 自分の潜在能力を発揮させる技術」という本をご紹介したいと思います。この著者は、ハーバード大学メディカルスクールの特別研究員で、医師としてのキャリアがある人です。元々はストレスが消化器系に与える悪影響についての研究をしていたらしいのですが、最近は研究対象を脳の機能へと広げているそうです。

この本、タイトルからは自己啓発的な内容の本かと思ってしまいますが、特に序盤には脳の話が沢山出てきます。ちょうど最近脳関連の書籍を読み漁っていたので、知っていることも多かったのですが、本書の真骨頂は、脳に関する知識を踏まえて、その先どうする?という部分です。脳の専門書と自己啓発書の中間、つなぎ役的な立ち位置の本だと思います。僕も脳に関する知見をどうにか生活に取り入れられないものかと考えていたので、とても参考になりました。

この本での中心的な論点は、「左脳が作り上げた自己イメージ」だと思います。以前の記事にも書きましたが、僕たちの左脳は言語や発話、高度な知的行動に特化した大変優れた器官です。そして、「自分に対するイメージ」を作りだしているのもこの左脳でした。

さて、この自己イメージ。統合された自己という概念は、必要なものではあるのですが、自己イメージに逸脱するようなことに対する抵抗感、つまり自分の限界を設定しているのも左脳なのです。人は、何か新しい環境に適応するとき、右脳が活発になります。そして右脳によって新しい環境に適応するパターンが発見されると、それが左脳に格納されます。要するに、左脳は定型化が得意なのです。

これを考えると、新しいことをやろうと思った時になかなか踏み出せない、居心地のいい状況に甘んじてしまう、という僕たちの性質がどのような仕組みで起こっているのかよくわかる気がしますね。

この自己イメージ、本書の中では「アイデンティティ」という言葉で説明されています。アイデンティティはとても重要な概念なので、関連書籍を別途ご紹介したいと思いますが、ここでは自己イメージという意味だと思って下さい。この自己イメージ=アイデンティティについてもう少し深堀りしてみましょう。

まず、理解しなければならないのは、アイデンティティとは固定されたものではなく、日々変わっていく動的なものだということです。アイデンティティは、自分が置かれている環境や関わった人たちから情報を得ながら、徐々に構築されていきます。注意しなければならないのは、このアイデンティティが本当の自分ではないということです。だって、本当の自分が環境や周りにいる人で決まるというのは、おかしいですもんね。

殻を破る、という言葉があります。僕はブレイクスルーと呼んでいますが、ある人がちょっとしたきっかけから刺激を受けて、今までの自分を軽々と越えていく場面を僕は沢山見てきました。つい先日も、一緒に働いている仲間が、ブレイクスルーを感じた、と言っていました。

彼は、ずっと自分の仕事に対して、このままでいいんだろうか?という悩みを抱えていました。さらに最近の彼は、複数のプロジェクトを同時に抱えていて、精神的にも肉体的にもとても追いつめられていました。そこで、ある種の「開き直り」のようなものが発生したのでしょう。彼はとても思慮深い男なので、今までは良かれと思う事も空気を読んで敢えて言わない、という所があったのですが、ふと「自分はこうした方がいいと思う」ということをぶちまけてみたそうです。それがスタッフの緊張感を高め、結果的に仕事の質が上がり、お客さんの評価も上がった。そして彼の自信につながり、ついには「自分はこれでいいんだ」と思えるようになったということです。

本書にも似たようなことが書いてあります。

人は「もうここまでだ」「これで終わりだ」「こんなことはこれ以上続けられない」という境地に達しないと、勇気を出して未知の世界へ飛び移ろうなどとはなかなか考えないものだ。それでも、ちょっとしたことや人との出会いから刺激を受けて、破れないと思い込んでいた殻を破り、新しい自分になって羽ばたくケースがある。

では、意識的にブレイクスルーを起こすことはできるのでしょうか?そのヒントは、「無自覚の行動を自覚した行動に変えていかないと本当に自由になることはできない」という本書の記述の中にあります。人間の行動のほとんどが無意識に行われていることはご存知でしょうか?そのような自動操縦モードで使われるのは、自己イメージだとすれば、意識して行動を変えていかなければ変われるはずがありません。

本書には、無意識の行動を意識的な行動に変えていく戦略についても示されています。キーワードになるのは、「注意」「言葉」そして「身体」です。それぞれ簡単に紹介しておきますね。

注意に関しては、僕たちは事実を見ているわけではなく、「見たいものを」見ていることを理解する必要があります。従って、注意を向ける先を変えない限り、ものの見方が変わることはあり得ません。

次に言葉。言葉には力があります。スピリチュアルな意味ではなく、実際に言葉と情動は脳の中で結び付けられています。そして人は、アイデンティティを語る時にも言葉を使いますよね。その言葉の使い方次第によって、自分像は大きく変わってしまいます。

最後に身体。脳関連の書籍を読むと、身体と脳のつながりはとても深いことがわかります。例えば運動が身体にいいのはなんとなく理解していても、理由は気分転換くらいしか思いつきませんよね。しかし、運動をすることによって脳の色々な部分が変わっていくことがわかってきています。例えば、身体を動かすことで感情が安定し、多少のことでは動じなくなる、なんてことも起こっているそうです。食生活や呼吸も考え方や認識に変化を及ぼすそうですよ。

「注意」「言葉」「身体」について変えていくことで、自己イメージの一歩外に出ることができれば、今までとは違う世界が広がっているかも知れませんね。是非到達してみたいものです。

さて、如何だったでしょうか?脳に関する知見を人生に活用する、という観点でよく書かれている本だと思います。ここで挙げたポイント以外にも、様々な論点や逸話などが紹介されており、面白いです。分量もそれほど多くないので、すぐ読めてしまいます。もっと詳しく知りたい方は、是非読んでみてください!

潜在意識が答えを知っている!

今日は、マクスウェル・マルス 著の「潜在意識が答えを知っている!」をご紹介したいと思います。著者のマルス博士はもともとは形成外科医だったのですが、その後患者の心に興味を持ち、心理学、誘導ミサイルの技術から催眠術まで幅広い研究をし、原著を完成させたが1960年。既に博士は亡くなっているのですが、この本は半世紀にわたって3000万人以上の人に読まれたという名著です。

本書は、人間がいかに目標を達成するかというサイコ・サイバネティクス理論という科学理論について書かれた本です。しかし、内容は難解ではなく、一般の人が読んでもわかりやすいように書かれていると思います。

サイコ・サイバネティクスの理論によると、人間の心には潜在意識というものが存在します。顕在意識(※)と潜在意識。まるで二つの心があるかのようですが、著者によると潜在意識は心というより脳と神経系から成るメカニズムで、顕在意識によって「自動的」に作用し、その人を方向づけるものだそうです。

※ 僕たちが自分の意識だと自覚している意識のこと。

さて、潜在意識が自動的に作用すし、方向づけるとはどういうことでしょうか?顕在意識で一旦目標を設定すると、後は潜在意識が自動的にその目標を達成するためにその人を動かす、ということです。まるで誘導ミサイルのようですが、著者はその仕組みを知るために誘導ミサイルの技術を勉強したんでしょうね。

「自動的に」というところがポイントで、目標の設定を間違えると、誤った目標を達成しようとしてしまうわけです。つまり、成功イメージを目標として与えれば成功に向かっていきますが、失敗イメージを目標として与えてしまうと、どこまでも失敗を追いかけてしまうわけですね。

失敗イメージを目標にするなんてこと、あるはずがないと思うかも知れませんが、例えばとても大事な仕事に取り組んでいて、「失敗したらどうしよう」とばかり考えていたとすれば、意識が向くのは当然失敗イメージの方です。そうならないために、成功をイメージして、正しい方向に目標を設定してあげる必要があります。

目標設定についておもしろい記述があったのでご紹介します。

春に生まれたリスには、冬の経験がない。それでも、秋にはせっせと木の実を貯え、食糧が獲れない冬の間をしのぐ。渡り鳥も、巣作りや飛行を教わらない。
(中略)
にもかかわらず、寒い冬が訪れる時期、それに何千キロも離れた温暖な地の正確な場所を「知っている」のだ。
これを説明しようとするとき、私たちはたいて、動物には「本能」があるからだと口にする。この本能を分析していくと、動物が環境にうまく適応する仕組みを持っていることがわかる。いわば動物は「成功本能」をもっているわけだ。

なるほど、確かに本能のなせる技というのはすごいですね。ただ、動物はその目標を自ら定めることができないと著者は言います。一方人間は、もっと複雑な成功本能を持っています。何故なら、さまざまな目標を自ら生み出すことだできるからです。この成功本能のことを「創造的なイマジネーション」と呼びます。

ではどうすれば潜在意識の力をうまく使って目標を達成できるのでしょうか。そのための5つの基本原理をご紹介します。

  1. あなたに内蔵された成功メカニズムには、目標やターゲットがなければならない。
    目標がなければそこに向かうことはできません。目標やターゲットは「すでに存在している」ものとして思い描くこと。
  2. 自動成功メカニズムは間接的に作用する。
    目標をきちんと設定したのなら、そこに至る具体的な手段が現時点でわからなくても大丈夫。手段を提供するように機能する。
  3. 一時的な失敗や誤りを恐れない。
    どんな誘導装置も、一発で目標に到達することはありません。前進し、誤りを修正しながら軌道修正していくものです。
  4. どんな技能も、試行錯誤によって身につけることができる。
    失敗を修正しながら学習を続ければ、過去の誤りを忘れ、成功した反応を覚えて模倣することができるようになります。
  5. 自分のメカニズムがきちんと働くと信頼しなければならない。
    メカニズムは、自分が行動し、行動によって要求が出されて初めて働きます。保証が得られるのを待って行動するのではなく、保証があるかのように行動することです。

大事なのはイメージをどう持つかです。本書には上記以外にも、とても有用なヒントが散りばめられています。最後に、僕が好きな一節を引用しておきます。

不可能は単なる見解にすぎない

なんか勇気づけられますね。何か達成したい目標がある、という方にオススメの一冊です。是非読んでみてください。