ハーバード流 自分の潜在能力を発揮させる技術

今日は、マリオ・アロンソ・ブッチ 著の「ハーバード流 自分の潜在能力を発揮させる技術」という本をご紹介したいと思います。この著者は、ハーバード大学メディカルスクールの特別研究員で、医師としてのキャリアがある人です。元々はストレスが消化器系に与える悪影響についての研究をしていたらしいのですが、最近は研究対象を脳の機能へと広げているそうです。

この本、タイトルからは自己啓発的な内容の本かと思ってしまいますが、特に序盤には脳の話が沢山出てきます。ちょうど最近脳関連の書籍を読み漁っていたので、知っていることも多かったのですが、本書の真骨頂は、脳に関する知識を踏まえて、その先どうする?という部分です。脳の専門書と自己啓発書の中間、つなぎ役的な立ち位置の本だと思います。僕も脳に関する知見をどうにか生活に取り入れられないものかと考えていたので、とても参考になりました。

この本での中心的な論点は、「左脳が作り上げた自己イメージ」だと思います。以前の記事にも書きましたが、僕たちの左脳は言語や発話、高度な知的行動に特化した大変優れた器官です。そして、「自分に対するイメージ」を作りだしているのもこの左脳でした。

さて、この自己イメージ。統合された自己という概念は、必要なものではあるのですが、自己イメージに逸脱するようなことに対する抵抗感、つまり自分の限界を設定しているのも左脳なのです。人は、何か新しい環境に適応するとき、右脳が活発になります。そして右脳によって新しい環境に適応するパターンが発見されると、それが左脳に格納されます。要するに、左脳は定型化が得意なのです。

これを考えると、新しいことをやろうと思った時になかなか踏み出せない、居心地のいい状況に甘んじてしまう、という僕たちの性質がどのような仕組みで起こっているのかよくわかる気がしますね。

この自己イメージ、本書の中では「アイデンティティ」という言葉で説明されています。アイデンティティはとても重要な概念なので、関連書籍を別途ご紹介したいと思いますが、ここでは自己イメージという意味だと思って下さい。この自己イメージ=アイデンティティについてもう少し深堀りしてみましょう。

まず、理解しなければならないのは、アイデンティティとは固定されたものではなく、日々変わっていく動的なものだということです。アイデンティティは、自分が置かれている環境や関わった人たちから情報を得ながら、徐々に構築されていきます。注意しなければならないのは、このアイデンティティが本当の自分ではないということです。だって、本当の自分が環境や周りにいる人で決まるというのは、おかしいですもんね。

殻を破る、という言葉があります。僕はブレイクスルーと呼んでいますが、ある人がちょっとしたきっかけから刺激を受けて、今までの自分を軽々と越えていく場面を僕は沢山見てきました。つい先日も、一緒に働いている仲間が、ブレイクスルーを感じた、と言っていました。

彼は、ずっと自分の仕事に対して、このままでいいんだろうか?という悩みを抱えていました。さらに最近の彼は、複数のプロジェクトを同時に抱えていて、精神的にも肉体的にもとても追いつめられていました。そこで、ある種の「開き直り」のようなものが発生したのでしょう。彼はとても思慮深い男なので、今までは良かれと思う事も空気を読んで敢えて言わない、という所があったのですが、ふと「自分はこうした方がいいと思う」ということをぶちまけてみたそうです。それがスタッフの緊張感を高め、結果的に仕事の質が上がり、お客さんの評価も上がった。そして彼の自信につながり、ついには「自分はこれでいいんだ」と思えるようになったということです。

本書にも似たようなことが書いてあります。

人は「もうここまでだ」「これで終わりだ」「こんなことはこれ以上続けられない」という境地に達しないと、勇気を出して未知の世界へ飛び移ろうなどとはなかなか考えないものだ。それでも、ちょっとしたことや人との出会いから刺激を受けて、破れないと思い込んでいた殻を破り、新しい自分になって羽ばたくケースがある。

では、意識的にブレイクスルーを起こすことはできるのでしょうか?そのヒントは、「無自覚の行動を自覚した行動に変えていかないと本当に自由になることはできない」という本書の記述の中にあります。人間の行動のほとんどが無意識に行われていることはご存知でしょうか?そのような自動操縦モードで使われるのは、自己イメージだとすれば、意識して行動を変えていかなければ変われるはずがありません。

本書には、無意識の行動を意識的な行動に変えていく戦略についても示されています。キーワードになるのは、「注意」「言葉」そして「身体」です。それぞれ簡単に紹介しておきますね。

注意に関しては、僕たちは事実を見ているわけではなく、「見たいものを」見ていることを理解する必要があります。従って、注意を向ける先を変えない限り、ものの見方が変わることはあり得ません。

次に言葉。言葉には力があります。スピリチュアルな意味ではなく、実際に言葉と情動は脳の中で結び付けられています。そして人は、アイデンティティを語る時にも言葉を使いますよね。その言葉の使い方次第によって、自分像は大きく変わってしまいます。

最後に身体。脳関連の書籍を読むと、身体と脳のつながりはとても深いことがわかります。例えば運動が身体にいいのはなんとなく理解していても、理由は気分転換くらいしか思いつきませんよね。しかし、運動をすることによって脳の色々な部分が変わっていくことがわかってきています。例えば、身体を動かすことで感情が安定し、多少のことでは動じなくなる、なんてことも起こっているそうです。食生活や呼吸も考え方や認識に変化を及ぼすそうですよ。

「注意」「言葉」「身体」について変えていくことで、自己イメージの一歩外に出ることができれば、今までとは違う世界が広がっているかも知れませんね。是非到達してみたいものです。

さて、如何だったでしょうか?脳に関する知見を人生に活用する、という観点でよく書かれている本だと思います。ここで挙げたポイント以外にも、様々な論点や逸話などが紹介されており、面白いです。分量もそれほど多くないので、すぐ読めてしまいます。もっと詳しく知りたい方は、是非読んでみてください!

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