選択の科学

今日は、シーナ・アイエンガー 著の「選択の科学」という本をご紹介します。著者であるシーナ・アイエンガーはコロンビア大学ビジネススクールの教授で、盲目の人気女性教授として有名な人です。本書を読んだ時にはとても感銘を受けたのですが、残念ながら当時は何も記録をしていなかったので、改めて記憶を呼び起こしながら纏めてみたいと思います。

まず最初に「オリエンテーション」として、何故著者が「選択」を研究対象として選んだのかが語られます。著者は自分の人生を振り返り、運命論や偶然の産物、という観点から語ります。つまり、自分の人生の物語は生まれた時から既に決まっていたのだ、という立場(運命論)や、人生は地図のない場所を進んでいくようなもので、自分で決められることがどれほどあるのか?という立場(偶然の産物)です。

しかし、第三の物語を語ることもできる、と著者は言います。それこそが、自分の物語を「自分で選んだ」という立場で語ることです。それについて、このように書かれています。

わたしは自分の人生を、すでに定められたもの、両親の意向に沿ったものとして考える事もできた。また自分の失明と父の死に折り合いをつける一つの方法として、それを自分の意思を超えた、思いがけないできごとの重なりと見なすこともできた。しかし、自分の人生を「選択」という次元で、つまり自分に可能なこと、実現できることという次元でとらえた方が、はるかに明るい展望が開けるように思われたのだ。

このようなきっかけから、著者は「選択」をテーマに研究を進めるようになったと言います。この本では「選択」を様々な観点から考え、「選択」が僕たちの人生に与える影響に関する様々な疑問に取り組んでいます。

自分の現在の状況、つまり今までの人生の物語は自分の選択の結果である、という考え方はとてもパワフルで、主体的なものだと思います。それを自分以外の誰かに委ねたり、他人のせいにすることは可能ですが、自分の人生のコントロールが自分にないのだとしたら、前に進む活力など湧いてくるでしょうか。

「選択ができる」とは自由であるということです。そして自由には責任が付きまといます。今までの人生が自分の選択の結果だとしたら、その責任は自分にあります。しかし、これから先どうやって生きていくかという「選択の自由」もまた僕たちにあるのです。この自由と責任を受け入れて生きていくことが、自分の人生に責任を持つ、ということではないでしょうか。このように考えると、「選択」が人生に及ぼす影響は測り知れませんよね。

さて、では本書でどのような論点が語られているのか、いくつかご紹介したいと思います。

まず、選択には力があるというお話です。僕たち人間は、身体だけでなく精神をも活用して様々な選択肢から最良のものを選ぼうとします。そうした行動が現在の人類の繁栄の一因になったとも考えられますが、さらに重要なのは、人間は「選択したい」という欲求を生まれながらにして持っているということだそうです。

この「選択したい」という欲求は非常に強いため、単なる目的達成のための手段ではなく、選択すること自体が目的になってしまうこともあるそうです。例として、高ストレス環境に置かれているはずの社長が高寿命である、という話が出てきます。つまり、状況を自分でコントロールしたいという欲求があり、それが満たされていると健康にも良い影響を及ぼすということです。選択できると感じることは、それだけで大きな力を持っているようですね。

次は選択とアイデンティティの関係についてのお話です。僕たちは、アイデンティティと選択の間を行き来しているのだと言います。「自分はこういう人間だからこれを選択するべき」、「これを選択した自分とは、こういう人間である」というように。これはつまり、「選択」も「アイデンティティ」も静的なものではなく、動的なプロセスであるということです。今まで自分がしてきた選択の積み重ねが自分を作ってきたように、これから行う選択もまた未来のアイデンティティを作っていくのだとすれば、自分にとって望ましい選択をしていくことがとても重要だと思います。

「選択は創られる」という章では、僕たちが無意識に受け取っている情報に、どれだけ影響されているかということが語られています。その最たる例が広告です。そう聞くと、僕たちは自分の決定権が脅かされているような気になります。そしてそれは悪いことだと。それに対し著者は、自分の価値観を脅かすような影響と、基本的に無害な影響を分けて考えた方がいいと言っています。本当に重要な選択にのみ注意を払い、つまらない選択に悩む必要はないのでは、ということですね。

最後の章では、選択と不確実性に関する記述があります。選択に力があるのは、それがほぼ無限の可能性を秘めているからだと言います。もし仮に未来が既に決まっていたとしたら、選択には価値はありませんよね。つまり、選択の力を最大限に活用しようとすれば、この世界の不確実性を認めなくてはならないのです。そんな不確実な世界を切り開いていく武器として、また自分を形作る材料として、納得できる選択をしたいものです。

この本には、他にも「選択をしないという選択肢もある」「選択肢が多いことは必ずしも利益にならない」など選択に関する興味深い論点が沢山紹介されています。「選択」にフォーカスした本はなかなかないと思うので、興味がある方は是非読んでみることをお勧めします。内容もそれほど難しくなく、身近な例なども沢山出てくるので読みやすいですよ。

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