コンセプトのつくりかた

今日は、玉樹真一郎 著の『コンセプトのつくりかた 「つくる」を考える方法』という本をご紹介したいと思います。ここ最近は読書はしているものの、訳あって心理学やら神経科学やらの小難しい専門書をひたすら読み漁っていました。そんな事をしているとかなり疲弊してくるので、ちょっと気分を変えて違うジャンルの本を手に取ってみました。読んでみると個人的にかなり面白かったので、是非共有したいと思います。

この著者は、大ヒットした任天堂のゲーム機「Wii」の元企画担当者が書いた本です。内容はタイトルの通りシンプルで、どうやってコンセプトをつくるかについて書かれています。コンセプトとは何か?ということについて著者は「まえがきのまえ」というページで以下の様に述べています。

広告やコンサルティング業界の人が振りかざす、小難しい道具?
何やらクリエイターに必要なアイデアとか発想とか?
…実は違います。
私たち誰もが、何かをするとき、生み出すときに最初に考えること。
それが「コンセプト」です。

何やらモヤっとしていて結局何が言いたいのかわからないでしょうか?実際、著者はこの「コンセプト」という言葉に色々な意味や思いを込めて使っています。何かを進めていく際に立ち返る場所、という意味でも使っていますし、世界を良くする方法、また自分と世界をつなぐもの、というように。後で僕なりの解釈はご紹介しますが、著者の真意は、是非実際に本書を読んで理解していただきたいと思います。

では、この本を読んで面白いと思ったこと、参考になったことをご紹介していきたいと思います。まず最初は、何と言っても極めて具体的にコンセプトの作り方を説明してくれている点だと思います。冷静に捉えれば、企画・アイデア発想法、特にブレインストーミングの手法をわかりやすく説明しているに過ぎないのかも知れませんが、僕が「参考になった」と感じたのは以下の点からです。

ブレインストーミング、これはアイデア出しをする時などに行う会議の手法なのですが、簡単に言えばとにかく制約を設けずに次々と自由にアイデアを出しまくる方法のことです。これを発散と言います。しかし、最終的にはその発散したアイデアを纏めないと収拾がつきませんので、もう出尽くしたな、と思ったら次はそれを収束させていきます。

僕は個人的に、ブレインストーミングの難しさは発散ではなく、収束にあると思っています。僕が不勉強なせいもあるでしょうが、今まで読んだ本の中で、ここまで収束のやり方を具体的に説明してくれている本はありませんでした。従ってブレインストーミングをやったけど収集がつかないよ!という悩みをお持ちの方は、とても参考になると思います。

この本を読んで面白かったこと、参考になったことの二つ目。それはコンセプトの作り方を、実際に「Wii」のコンセプトを作った時の例を挙げて説明してくれているところです。Wiiは家庭用ゲーム機の裾野を広げたと言っていいと思いますが、その製品のコンセプトがどのようにして作られたのか、それを追体験できるのはとても面白いと思います。特にゲーマーの方は「なるほど、そうだったのか!」と思う瞬間があると思いますよ!

そして三点目。それは著者が「コンセプト」という言葉に込めた思いに触れられたことです。著者は、明らかに辞書的な意味を拡張して「コンセプト」という言葉を使っているのですが、それはもはや自分の情熱、使命、アイデンティティに関わるほど深いものだと思います。

まず最初に強調されるのは、世界を良くするための指針、という部分です。もちろん、営利団体が行う事業はその背後に利益を出さなくてはならない、という宿命があるのですが、それよりも、どうやったらもっと世界が良くなるか、という思いがコンセプトには込められるべきなんだということを強く感じました。

それから、その「良さ」というものが既存の良さではなく、未知の良さであるべきだということ。既に誰もが価値を認めているような「良さ」ではなく、世の中の人が「おお、こんな良さもあったのか」と思うような、そんな未知の良さを世界に提案するために、著者の言うような「コンセプト」が不可欠なのだと思います。もちろん、既存の良さを追求していくという戦略もあり得るのですが、それをするには莫大なリソースが必要だよ、という現実的な視点も混ざっています。

そんなコンセプトを生み出すためには、方法論だけでなく自分の本質や根源から様々な思いを絞り出すことが重要です。この本を読んでいて、著者の言うコンセプト作りは、自分のアイデンティティを構築していく作業にとてもよく似ているなと思いました。

さて、ここでは大きく3つのポイントを挙げてみましたが、他にも参考になるポイントが沢山あると思います。文章も読みやすく、ゲームになぞらえた表現なども出てくるので、さらっと読めてしまいます。何か新しく行動を起こしてやろう、と思っている方には是非読んで頂きたいオススメの一冊です。勇気をもらえますよ。

幸せがずっと続く12の行動習慣

今日は、ソニア・リュボミアスキー 著の「幸せがずっと続く12の行動習慣」という本をご紹介したいと思います。著者は心理学の教授で、ハーバードで学士を、スタンフォードで博士を取ったようです。すごい経歴ですね。

この本は、「幸せ」というものを真剣に研究し、幸せになるためにはどうすればいいのかを科学的な観点から解き明かした本です。結論から言うと、本当に素晴らしい本でした。

僕が見た時点では、Amazonでのレビューが全て5点満点(!)だったのですが、実際に読んでみて充分に頷ける内容だと思いました。「幸せ」という難しいテーマにこだわって研究している著者の熱意もすごいですが、書かれていることは全て裏付けがあり、怪しげな自己啓発本とは一線を画しているという所がポイントだと思います。

伝統的な心理学では、精神疾患の治療に重きが置かれていたため、どちらかというとネガティブな状態をゼロに戻す、そんな研究が主となってきました。しかし近年、心理学の知見をもっとポジティブに生きるためにも使えるのではないか、ということで「ポジティブ心理学」なるものが注目されているようです。この本もそのポジティブ心理学について書かれた本です。

さて、この本を読んでいてまず勇気づけられるのは、「人の幸せは何によって決まるのか」について書かれた部分です。その答えは、「遺伝」「環境」「意図的な行動」です。さらに、それぞれが人の幸福感に与えるインパクトは、50%、10%、40%という割合になっています。皆さんはこの数字を見て、どのように思われるでしょうか。

間違えて欲しくないのは、「実際に幸せかどうか」ではなく、「幸せだと思うかどうか」がこの割合で決まるということです。その上でこの数字を見てみると、やはり遺伝の影響は大きいですね。著者はこの遺伝によって決まる部分を、基準点(初期設定値)という呼び方で読んでいます。人が感じる幸福度は、生まれつきある程度決まっていて、様々な出来事によって上下動はするものの、ある程度の時間が経つと基準点に戻る特性があるようです。

次に環境ですが、10%しかないというのが面白いですね。これについて著者の言葉を引用してみましょう。

おそらく、最も意外に思われるであろう結論をこの円グラフは示しています。「裕福か、貧乏か」「健康か、病気がちか」「器量がいいか、人並みか」「既婚者か、離婚経験者か」などの生活環境や状況による違いは、幸福度のわずか10%しか占めない、ということを。

この原因は、「快楽順応」というキーワードにあります。人は、環境の変化に、驚くほど早く「慣れてしまう」のだそうです。著者はこの原因として、願望がどんどん大きくなっていくこと、まわりの人と比較してしまうこと、の二つを挙げています。著者によれば、「多くの人が幸せになるために環境を変えようと努力するが、これこそ幸せを追求する上での最大の皮肉」だそうです。

さて、遺伝と環境、合わせて60%ですが、遺伝は変えられるものではありませんし、環境は変えるのに大きな労力を要する割には効果が小さい。そう、鍵は残りの40%、つまり「意図的な行動」にあるというのが本書のテーマです。行動習慣を変えることによって、幸福度は高めることができる、というわけです。

ちなみに、監修者のあとがきにもありましたが、40%までしか幸せになれない、という意味ではありません。40%を使って非常に幸福な状態になることも可能です。これは体重に例えることができます。元々太りやすい体質かどうかは遺伝で決まりますが、適切な栄養管理や運動を行うことで痩せることは可能です。幸せについても同じ。元々幸福度を感じにくい体質であっても、意図的な行動によって幸せになることはできるのです。

では、その意図的な行動とは一体何か?タイトルにもあるように、12の行動を習慣付けることが提案されています。しかし、一度に12もの行動を行うのは無理があります。そこで、「幸福行動診断テスト」というものがあります。これは、12の行動のうち、自分に合ったものがどれかを診断するためのテストで、まずはテストで得点の高かった4つから行動に移しなさい、とされています。12の行動とは、下記のような内容です。

  1. 感謝の気持ちを表す:自分が恵まれていることを数えあげるとか、これまできちんとお礼を言ったことがない相手に感謝やありがたいという思いを伝えること。
  2. 楽観的な気持ちを高める:将来の最高の自分を想像したり、それについて日記に書いたり、あるいはどんな状況でも明るい面を見ること。
  3. 考えすぎない、他人と比較しない:問題についてくよくよ悩んだり、自分を他人と比較したりしないために何かをすること。
  4. 人に親切にする:相手が友人であっても見知らぬ人でも、直接にでも匿名でも、その場の偶然でも計画したものであっても、人に親切にすること。
  5. 人間関係を育む:もっと強めたい人間関係を選んで、それを深め、確認し、楽しむために時間やエネルギーを注ぎ込むこと。時には修復することも含む。
  6. 問題に立ち向かうための対策をとる:最近のストレスや困難を克服したり、トラウマから学んだりする方法を身につけること。
  7. 人を許す:日記をつけたり手紙を書いたりして、あなたを傷つけたりひどい扱いをした人への怒りや恨みを手放そうとすること。
  8. 心から打ち込める活動をもっと増やす:家庭や職場で「我を忘れる」ほど打ち込め、やりがいがあり没頭できる経験を増やすこと。
  9. 人生の喜びを深く味わう:人生の喜びや驚きの時間にもっと注意を向け、そのことを味わい、思い出すこと。
  10. 目標の達成に全力を尽くす:自分にとって意味のある重要な目標を1つ~3つほど選び、時間を費やして追い求める努力をすること。
  11. 宗教やスピリチュアルなものに関わる:教会や寺社などにもっと足を運び、スピリチュアルなものをテーマにした本を読んだり、そうしたものについて考えたりすること。
  12. 身体を大切にする:運動や瞑想を行うこと。

注目すべきは、これらの行動に幸福度を高める効果がある、ということが少なくとも現在の心理学で実証されているということだと思います。ちなみに僕は、楽観的な気持ちを高める、人間関係を育む、心から打ち込める活動をもっと増やす、人生の喜びを深く味わう、という4つが当面の行動目標になりました。

もちろん、本書にはそれぞれの行動についての詳細や、具体的にどんなことをすればいいのかなどがきちんと示されています。誰もが幸せになりたいと願っています。しかしその方法を見つけることは難しいですし、あったとしても怪しげな感じがしますよね。この本はその点にとても配慮して書かれていると思いますので、どんな方にもオススメできる一冊です。幸せになりたい!という方は是非読んでみてくださいね。

感情力 自分をコントロールできる人できない人

今日は、フランソワ・ルロール & クリストフ・アンドレ 著の「感情力 自分をコントロールできる人できない人」という本をご紹介したいと思います。著者は二人とも精神科医なのですが、一般の人向けに書かれていてわかりやすいです。また、文章から優しさのようなものが感じられるからでしょうか、読むと楽になれるような気がします。

さて、この本のテーマは「感情力」。感情力とは何かというと、感情の力をうまくコントロールする力のことです。この感情力、概念としてはEQ(感情知能)にとても似ているのですが、感情をうまく表現したり、それを踏まえて行動したりする「能力」にフォーカスするためにあえてこのような表現を使っているとのことです。本書では、以下の要素を「感情力」としています。

  • 怒りでも悲しみでも嫉妬でも喜びでも、自分がどんな感情を抱いているかに気づき、またそのことを率直に認める能力
  • 人間関係を壊すのではなく、コミュニケーションがうまくいく形で感情を表現する能力
  • 感情に突き動かされたり、反対に激しい感情のせいで何もできなくなったりするのではなく、感情をうまく利用して適切に行動する能力
  • 相手の感情を理解し、適切に反応する能力

先日ご紹介した「サーチ!」という本でもご紹介した通り、EQは自分を省みる能力、他者と共感する能力のことです。たしかに、感情力とEQはとても似ていますね。

感情と言っても様々な種類の感情があります。著者は、感情にはいくつかの基本的なものがあり(基本感情と言います)、それらが結びつくことで複雑な感情ができあがっていると言います。どの感情が基本感情にあたるかは諸説あるようですが、本書を読む限りでは、チャールズ・ダーウィンが唱えた「喜び」「驚き」「悲しみ」「恐怖」「嫌悪」「怒り」の6つが有力なようです。

ある感情が基本感情かどうかを見分ける基準は、いくつかあるようです。

  • 突然感じられること
  • 長く続かないこと
  • ほかの感情と区別がつくこと
  • 赤ん坊にもあること
  • 特有の身体的な反応を伴うこと
  • 普遍的な表情を持っていること
  • 同じ経験をしたら誰もが感じるということ
  • 類人猿にも同じ様な感情が見られること

簡単にまとめると、基本感情は「反応」であり、我々人間(とその仲間)が生まれつき持っているもの、という感じでしょうか。

この本では、基本感情かどうかに関わらず、重要だと思われる感情について1章ずつ取り上げています。その感情とは、「怒り」「羨望」「喜び、上機嫌、幸せなど」「悲しみ」「羞恥」「嫉妬」「恐怖」「恋愛」です。

それぞれの章では、それぞれの感情がどのようなものなのか、何の役に立つのか、どのような仕組みで生まれるのか、そしてその感情とどううまく付き合っていくか等について丁寧に解説されています。具体的な例を交えた説明なので、とてもわかりやすいです。

感情は勝手に湧きあがってくるので特に意識したことはありませんでしたが、進化論的に考えると「その感情が今の我々に残っているというこは意味がある」ということになります。

例えば「怒り」には戦う準備をさせるという役割と、威嚇という役割があります。怒りは覚えると筋肉が収縮し、心臓の鼓動が速くなるのですが、これは素早く動くための準備なのだそうです。また、「怒り」の表情は世界共通であり、これを知らせることで無用な戦いを避けることができます。特に野生の世界では、戦いは死に直結する可能性が高いので、怒っていると伝えることで抑止力となるわけですね。

このように考えると、感情には意味があるということがよくわかります。ポジティブな感情なら大歓迎ですが、ネガティブな感情はできれば味わいたくないものです。でも、例えネガティブな感情が湧きおこってきても、その背後にある「意味」を理解していれば、ちょっと冷静になれるかも知れませんね。実際、このようなアプローチはカウンセリングなどで使われる認知療法で使われています。

個人的には、何を幸せと感じるかは性格に関係しているのではないか、という部分がとても面白かったです。性格分析には以前ご紹介した「ビッグファイブ」という性格分析アプローチが出てきます。実際に当てはまるかどうかは別にして、自分の性格から目指すべき幸せを考えてみる、というのも面白いかも知れません。

この本は、特定の感情がコントロールできなくて困っている方はもちろん、「感情」そのものについて勉強したいと思っている方にもとてもオススメの一冊です。気になる方は是非読んでみてください!

サーチ! 富と幸福を高める自己探索メソッド

今日は、チャディー・メン・タン 著の「サーチ! 富と幸福を高める自己探索メソッド」という本をご紹介します。著者はGoogleの人材育成担当者で、実際に行われているGoogleの研修プログラムを「オープンソース」として広めるために本にしたものだそうです。

プログラムの共同開発者は「EQ こころの知能指数」で有名なダニエル・ゴールマン。この人が関わっているのと、Googleではどんな研修が行われているのか、という興味から手にとって読んでみました。

この本のテーマはやはりEQ。対人関係や仕事の能力に影響するとされる、「情動的知能指数」のことです。著者はこのEQの中核を成すのは自己を知ることであり、そのためには「マインドフルネス」という心のトレーニングが重要だと説いています。

EQの詳しい解説はここでは省略しますが、EQは以前ご紹介したハワード・ガードナーの言うところの、「内省的知能」と「対人的知能」と対応しています。自分を省みる能力、他者と共感する能力、ということなのですが、その基礎となるのがやはり自己との対話、つまり自分をよく知ることなのだと思います。

では、ここで出てくる「マインドフルネス」とは何なのでしょうか?マインドフルネスの定義は色々あるようですが、「特別な形、つまり意図的に、今の瞬間に、評価や判断とは無縁の形で注意を払うこと」あるいは「自分の意識を今の現実に敏感に保つこと」などと言われているようです。そして、このマインドフルネスを鍛えるために瞑想をせよ、と言うのです。

瞑想?そう、瞑想です。正直、僕は今まで瞑想というものを科学的に捉えたことはありませんでした。自己啓発系の本を読んでいると、結構瞑想の話が出てくるのですが、「何か怪しい」という理由であまり注意を払ってきませんでした。僕はスピリチュアルな考え方は嫌いではありません。が、いざ自分が実践するとなると「何故それがためになるのか」という問いに納得できないとなかなか手が出ないのです。

しかし、この本を読んで瞑想に関す捉え方がガラッと変わりました。著者はこう言います。

瞑想には謎めいたところは少しもない。じつのところ、瞑想はたんなる心のトレーニングにすぎない。

よく考えてみれば著者はGoogleの社員で、元エンジニアだと言います。その彼が「瞑想が重要だ」と言うのはなかなか面白いですが、近年の神経科学の発展により、瞑想の効果が科学的にどんどん証明されているのだと言います。それどころか、あのダライ・ラマも瞑想の科学的な研究に好意的だと言います。以下はダライ・ラマの著書より。

もし科学的分析によって、仏教の主張の一部が誤りであることが決定的に立証されるようなことがあれば、私たちは科学の発見を受け入れ、誤った主張は捨てなくてはならない。

というわけで、僕も瞑想をやってみよう!という気になりました。しかし、なんか難しそうだしちゃんと続けられるだろうか、という心配もあります。ご心配なく、この本ではかなり低いハードルで、誰でも気軽に瞑想を体験し、持続できるような方法を沢山紹介してくれています。しばらく寝る前に少しずつ、瞑想をしてみようと思います。

さて、瞑想によってマインドフルネスとやらを鍛えたとして、どんな良いことがあるのでしょうか?瞑想とはつまり、自分の「注意」をコントロールする心の技術なのだと言います。自分の注意を意のままにコントロールできれば、自分の情動がどこに向いているか、自分はどんな人間なのか、などを明確に把握できるようになるそうです。そして自分をよく知るということは、自信に繋がります。

他にも自己統制、自己動機づけ、共感やリーダーシップ、こういったもの全てにマインドフルネス、つまり自分の注意をコントロールする能力が関わっているというのです。

自己認識(自分との対話)と他者との共感に一体どのような関係があるのかと疑問に思いながら読んでいたのですが、どうやら自己認識と共感は、使っている脳の部位が似通っているそうです。つまり、自己認識が優れている人は、共感能力も高いというわけですね。

さて、読んでいるだけでもとても面白いこの本ですが、実際にGoogleで高い効果を上げているとのことですので、是非僕もやってみようと思っています。興味がある方は、是非読んで、そして実際に試してみて頂きたいと思います。

個人的には、僕もエンジニアの端くれであること、そしてどういう訳か今は「人がよりよく生きるにはどうすればいいか」にとても興味があること、などの点で著者に親近感を抱きました(もちろん、ステージは全く違いますが)。彼の人生の目的は、この「サーチ!」というプログラムを通じて世界を平和にすることだそうです。

僕もゆくゆくは自分の考えを纏めたプログラムを作って世の中に広めていきたいと考えています。そういう意味では、著者の考え方、アプローチ、そして出来上がったプログラムも、全てとても参考になったと同時に、刺激にもなりました。大きな目標や夢を持っている方は、そういう視点で読んでみても面白いかと思います。

なぜビジョナリーには未来が見えるのか?

今日は、エリック・カロニウス 著の「なぜビジョナリーには未来が見えるのか? 成功者たちの思考法を脳科学で解き明かす」という本をご紹介したいと思います。著者はウォールストリートジャーナルやニューズウィークなどで活躍しているジャーナリスト。脳科学の棚にあった本ですが、専門書ではないのでとても読みやすいです。

さて、「ビジョナリー」とは何でしょうか?将来を見通す力、つまりビジョンを持った人のことをビジョナリーと呼んでいるようです。ただ、ビジョンを持っているだけでなく、そのビジョンを実現するためにはどんなことも厭わない、そんなニュアンスも含まれています。この本に出てくるビジョナリーは、ヴァージングループのリチャード・ブランソン、アップルのスティーブ・ジョブズなど、いわゆる成功者と呼ばれる人たちです。

今まで、彼らの成功の秘訣を解き明かそうとした本は沢山ありましたが、この本の面白いところはそれを脳科学の観点からやろうとしたことだと思います。脳科学は近年急激に進歩し、様々なことがわかってきています。「はじめに」では以下のように語られています。

とりわけ、脳が「ビジョンをもたらす装置」であるという発見が興味深い。脳には元々、私たちの思考に「像」をもたらし、実在しないものの青写真をつくる機能が備わっている。また、脳には顕在意識で解決できない問題を無意識下で解決しようとする傾向があることや、絶えずパターンを探し求めていること、自分を取り巻く世界をつねにつくり変えていることも明らかにされつつある。

脳が「ビジョンをもたらす装置」という考え方は、とても面白いですね。確かに僕たち人間は、まだ現実化していない自分の考えを、想像力を使ってありありとイメージすることができます。成功者と言われる人たちが、そんな不思議な装置である脳をどのように使っていたのか、とてもわくわくしながら読むことができました。

この本では、ビジョナリーが優れている点を以下のように挙げた上で、それらを脳科学的に見るとどういうことなのか、という考察が加えられています。

  1. 発見力
    僕たちの脳は、常に「パターン」を探していると言います。日々膨大な情報に晒されている脳は、物事をパターン化することで、効率良くものを記憶しているのです。何かを発見するということは、このパターンを見つけることに他なりません。ビジョナリーは、普通の人がなかなか見つけられないパターンを見つけることに長けているのだと言います。しかし、彼らは存在しないものを見ているものではなく、目の前にあるものを見ているだけなのだ、という指摘にはちょっと勇気づけられます。
  2. 想像力
    脳の研究から、想像で描いた像と、実際に物や人を見た像は、どちらも脳内の同じ場所で生み出されると言います。つまり、想像力が生みだす像は、実際に目で見たものと同じくらいリアルに感じられるということでしょう。ビジョナリーには、これから実現しようと思っているアイデアが「見えていた」と言います。そのためには、ただ寝そべって頭の中で考えるのではなく、現実世界に出て行って、様々なことを自ら経験することが大事だそうです。
  3. 直観
    直観については以前からこのブログでもご紹介していますが、直観とは無意識の声です。何かを決断する時、無意識が大統領、顕在意識は報道官である、という例えが出てきますが、無意識の力は普段僕たちが意識しない間にもずっと働いていて、それが直観という形で浮かび上がってくるということですね。
    しかし、直観が常に正しいわけではありません。間違ったパターンにとらわれることもあります。しかし、ビジョナリーは、自分の直感が正しいのか間違っているのかを判断できると言います。それは、実践で経験を積み洞察力を鍛えているから、ということのようですね。
  4. 勇気と信念
    脳には、目的意識を背後から操る神経伝達物質があるそうです。それがドーパミンです。ドーパミンは、人にやる気を起こさせ、目的を魅力的なものに思わせる働きがあるそうです。また、新しいパターンを見つけることを促す作用もあるのだとか。
    ビジョナリーは、高い目的意識を持っています。おそらく、ドーパミンが多い放出されているのではないでしょうか。そう考えると、ある意味で目標に向かって突き進まざるを得ない「達成依存症」と言えなくもないかもしれませんね。そして、高い目的意識の背後には、何かを「よりよくしたい」という強い情熱があることも合わせて指摘されています。
  5. 共有力
    たとえビジョナリーであっても、一人で何かを成し遂げることは難しいでしょう。彼らは、人を巻き込むのが得意なのです。彼らが熱意を持っているのはわかりますが、何故人は巻き込まれてしまうのでしょうか。著者はミラーニューロンが関係する可能性が高い、と述べています。ミラーニューロンは、他者の感情を自分の感情として感じるニューロンのことです。つまり、彼らはミラーニューロンを通じて熱意を他者に感じさせることが得意だということなのでしょう。偽りのない、自分の心の奥底から湧き出るありのままの情熱が人を動かす、これはいわゆるカリスマ性の正体かも知れません。

  6. 成功するかしないか、そこに運の要素はつきものです。ビジョナリーは運がいいようです。しかし、運をコントロールすることはできるのでしょうか?どうやらこれは、決してあきらめない、チャンレンジする機会を増やす、ということが関係していそうです。そして、最終結果をコントロールすることはできなくても、ここに挙げたような様々な能力を使って一回一回のチャンレンジの精度を上げることもできるのです。

さあ、如何だったでしょうか?脳は大人になっても成長を続けると言います。こういったことを取り入れれば、ビジョナリーになれるかも知れませんね!本書には他にも、「ビジョンを曇らせるもの」「ビジョナリー気取りの誤算」「ビジョンを習得することは可能か?」など興味深い論点が用意されています。ビジョナリーと言われる人たちのエピソードが多く含まれているので、読んでいてとても面白いですよ。機会があれば、是非読んでみてくださいね!

人を動かす[超]書き方トレーニング

今日は、苫米地英人 著の「人を動かす[超]書き方トレーニング 劇的な成果が手に入る驚異の作文術」という本をご紹介したいと思います。著者の苫米地さんという人は、脳機能学者で、オウム真理教事件の際には信者の脱洗脳にも関わったらしいです。

著者はネットや書評などで様々な言われ方をしているようですが、僕が読んだこの本に関しては大変まともな文章術の指南書でした。詳細な文法などの話は出てきませんが、人に読んでもらうための文章をどうやって書けばいいのか、その力を鍛えるためにはどうすればいいのか、が明快に書かれているお奨めの一冊です。ただし、対象としている文章が一般的な文章で、小説などの文芸作品ではないので、その点は注意が必要です。

当たり前のことですが、何かを書き、人に読んでもらうからには、何らかの形で「役に立つ」必要があります。著者は、「書き手は読み手よりも知識量が圧倒的に多いことが前提」としています。これは一般的な文章が情報の伝達を目的としているので、書くべき内容がないのに文章力を挙げても意味がない、ということなのでしょう。基本的なことですが、何かを伝えるには少なくともある程度の勉強は必要、ということは肝に命じておきたいですね。

この基本を押さえた上で、僕が参考になったポイントをいくつかご紹介します。

全体像ができあがってから書きはじめる

これも当たり前のことなのかも知れませんが、僕は文章を書こうと思い立ち、構成を考えずにすぐに書き始めてしまうことがよくあります。こうして書き始めた文章は、運が良ければ当初の目的通りの文章になりますが、場合によっては途中でどんどん脱線し、書き終わってみたら別モノになっていた、なんてこともあります。

本書では、「ゲシュタルト」という概念でこれを説明しています。ゲシュタルトとは、部分の総和以上の全体が出来上がること、と定義されています。例えば音楽は音符の集まりですが、全体として見たときに音符の集まり以上の「楽曲」というゲシュタルトになります。文章もこれと同じで、単なる単文の集まりではなく、全体としてゲシュタルトとして完成されている必要があるのです。

構成を考えてから文章を書く、というのはここで言うゲシュタルトを先に作ってから書き始めるということです。それができていないと、意図したゲシュタルトとは別のものができてしまったり、意味のわからないゲシュタルトができてしまったりします。

スコトーマのジレンマを解消する

耳慣れない言葉ですが、人に文章をきちんと読んでもらうためには、「スコトーマ」を解消しなければならない、と著者は言います。スコトーマとは、既成概念にとらわれすぎることで、新しい情報が見えなくなる状態を指します。人の脳は新しい情報を取り込む時、既に持っている情報との関連付けで認識するのですが、この「既に持っている情報」というのが曲者なんですね。新しい情報を目にしても、「既に知っている」と勘違いした情報は頭に入ってこないということになってしまうからです。

つまり、人間の脳はしっていることしか認識できないけれど、知っていると思った瞬間にスコトーマの原理がはたらいて認識できなくなる、というジレンマがあるらしいのです。著者はこれのスコトーマを外すことが重要だと説きます。これは別の言い方をすれば、先入観をなくす、ということです。

スコトーマを外すというのは、それまで重要だと思っていなかったこと、スコトーマに隠れて認識されていなかったことが実は重要なことなのだと読者に気付かせてあげるということです。

具体的なテクニックとして、「文章を貫くコンセプトは一つに絞る」「キーワードはきちんと定義してい使う」などが紹介されています。どれも文章の基本だと思いますが、そうしなければならない理由をきちんと理解することができました。

論理的な文章を書く

論理的な文章とはどういうものでしょう?著者は、よく言われている三段論法は不確実な要素を表現できないため机上の空論だと言っています。それに変わる論法として「トゥールミンロジック」を使うべき、としています。これもまた聞き慣れない言葉ですが、要約すると以下のようになります。

  • 文章には、「データ」「ワラント」「クレーム」の3つの要素が必要。
  • データとは、主張する内容を裏付ける事実のこと。
  • ワラントとは、提示したデータがなぜ主張する内容を裏付けることになるのかという根拠のこと。
  • クレームとは、主張したい内容そのもの。
  • ワラントが抜け落ちることが多い。

他にも、「バッキング」「クオリファイヤー」「リザベーション」という要素があります。これらは三段論法に欠けている不確実性を補うためのものです。例外や、主張の強度(確立など)がこれに当たります。

書くための感性を磨け

最後の章に書いてあることがなかなかおもしろかったので紹介します。著者は人を動かす文章を書くには、文章力と感性が必要と言っているのですが、この「感性」は論理を超えたところにある、というのです。感性と論理は通常相対する概念として捉えられることがありますよね。しかし、論理を完全に極めたその先にあるのが感性だ、そしてその感性を発揮するにはやはり圧倒的な知識量が必要だ、というのはなるほどと思わされました。

この本では具体的なトレーニングの方法や、実際に文章を組み立てていく実例なども示されているので、読むだけでなく実際に手を動かしてトレーニングしていけば文章力が鍛えられると思います。詳細な文章テクニックを学ぶ前に押さえておいた方がいいポイントが沢山書かれているので、文章が苦手な方は是非読んでみては如何でしょうか?

人生の科学 「無意識」があなたの一生を決める

今日は、デイヴィッド・ブルックス 著の『人生の科学 「無意識」があなたの一生を決める』という本をご紹介したいと思います。著者であるデイヴィッド・ブルックスはニューヨーク・タイムズのコラムニスト。タイトルに「科学」とついてはいるものの、科学者が書いた本ではありません。

「謝辞」にも書いてありますが、著者は政治や政策、社会学や文化などの執筆を専門としている人です。本書では心理学や神経科学についての記述が多く出てくるのですが、それはもともとは「趣味」なんだとか。ジャーナリストがこのような本を書く「危険性」は承知しているが、近年の心理学、神経科学の成果は素晴らしく、それをどうにか一般の人に分かりやすく伝えたかった、ということのようです。

ここについては僕も同意見で、「人間」を考える上で最近の心理学や神経科学の研究は本当にためになるものだと思います。惜しむべきは、それらが本当の意味で実生活に生かされていない、ということだと思っています。ジャーナリスト、つまり世の中の人に伝える役割の人間として、「どうにかして伝えたい!」という思いがあったのだと思います。

本書は架空のストーリーという形で描かれています。別々の二人の人物が生まれ、出会い、共に人生を生きていくストーリーです。彼らの人生に起こる出来事について、心理学、神経科学はもちろん、経済学や哲学など、様々な観点からの考察が書かれています。著者は、「このような手法を採ることにしたのは、わかりやすいし、実感が伴う」からだと語っています。

読み終えた率直な感想は、人間というものが如何に複雑な生き物か、ということです。そして、僕たちが生きていく上で「無意識」がどれだけ重要な役割を果たしているのか、という著者の主張が、ストーリーを通して読むことで実感に近い形で理解できました。その点では、著者の試みは成功なのだと思います。

ちなみに、このストーリーの登場人物が送ったような人生が「幸福な人生」のモデル、というわけではありません。ある種の「成功観」のようなものを押しつける本でもありません。僕がこのストーリーの主人公のような人生を送りたいかと言われればちょっと疑問ですし、自分ならばこうする、という場面も沢山ありました。読者が注目すべきはストーリーの流れではなく、その裏側で何が起きていたのか、という考察だと思います。

そういう観点でこの本を読むと、「人生」というものについてこれほど包括的に語っている本はなかなかないのではないか、と思います。各論は専門書でよく出てくる話が多いので目新しさ自体はあまりないですが、それらが人生のどんな時に起こり、その後の人生にどんな影響を与えていくのか、という「流れ」や「つながり」がストーリーで語られることによってよく分かりました。

本書には様々な知見が登場します。その中で全体を貫くテーマは、何と言っても「無意識」の持つ力についてでしょう。

例えば人は何かを決断する時、「意識的に」決断していると思っています。しかし、実は無意識の内に既に決断は下されていて、後から意識に伝わる、ということがわかってきたようです。つまり、いくつかの選択肢があった時、無意識は感情という形でそれぞれの選択肢の価値を決めます。理性は、その価値の高いものを選ぶことになります。そういう意味では、意思決定の主役は理性ではなく感情で、その裏には大きな無意識のシステムが広がっている、と捉えることもできるでしょう。

これは無意識に関する論点のほんの一部でしかありませんが、このような無意識のシステムが、どういう過程を経て作られるのか、主人公たちの成長を追いながら解き明かしていく様は、なかなか面白いです。

そしてもう一つのテーマは、人間は社会的な生き物である、という主張だと思います。この点について、以下のように書かれています。

人間はもちろん生物である。生物である以上、その誕生についてあくまで生物学的に説明することはできる。受胎、妊娠、誕生というプロセスを経て産まれてきたわけだ。ハロルド(※ 主人公の名前)もそうだ。しかし、人間はそういう生物学的なプロセスだけではできあがらない。人間、特に人間の本質と呼べる部分ができるまでには、他の人間との関わりが必要になるのだ。

人間の人間らしさは、他の人間の影響なしには作られないということですね。

最後に、僕がなるほどと思った「合理主義の限界」という論点をご紹介しましょう。科学の限界と言ってもよいでしょう。科学的なアプローチで用いられる方法では、物事を小さな要素に分けて考え、それらの総和として全体を説明します。しかし、このアプローチで説明できないシステムがあります。それが「創発システム」と呼ばれるものです。個々の要素が複雑に関係しあい、全体が部分の総和以上になるシステムのことなのですが、人間もまた「創発システム」なのでしょうね。科学的に検証されていることはとてもわかりやすいというメリットがありますが、同時に限界もあるということを知っておいた方がいいのかも知れません。

さて、前述した通り、本書はとても包括的な本です。書かれている内容をまとめることはおろか、論点を書き出すだけでもものすごい量になってしまうと思います。そういう理由で一部の紹介に留めました。詳しい内容は、皆さん自身で確かめてみることをおすすめします。気になった方は、是非読んでみてくださいね!

シンクロニシティ 未来をつくるリーダーシップ

今日は、ジョセフ・ジャウォースキー 著の「シンクロニシティ 未来をつくるリーダーシップ」という本をご紹介したいと思います。この本は、いわゆる“積ん読”状態になっていた本でしたが、ふと目に止まったので読んでみました。

皆さんは、シンクロニシティという単語をご存じでしょうか?日本語では共時性と言います。「二つ以上の出来事が重要な意味を持って同時に起こる事。そこには単なるチャンスの到来以外の何かが関わっている」と定義されており、心理学で非常に有名なC・G・ユングが提唱しました。このシンクロニシティについては、監修者解説の中で以下のように説明されています。

ある事象と別の事象が、さらにまた別の事象が、時間的に近接して、つぎつぎとつながりを持って生まれるような現象に出会い、それらの事象間に必ずしも因果で説明できる部分がなければ、それはシンクロニシティと言っていいだろう。

ちょっと不思議な感覚なのですが、皆さんもそんな経験はないでしょうか?何故だかはよくわからないけど、何となく意味やつながりを持つと思われるようなことが身の回りで次々と起きて、不思議な感覚を味わった経験。具体的な内容はあまり思い出せませんが、僕はその感覚を度々味わっているような気がします。

この本の内容は実話です。著者の身に実際に起こった「シンクロニシティ」が物語として語られていて、とても面白いです。物語なのでとても読みやすかったですし、とても感動しました。あまりにも面白かったので明け方までかかって一気に読んでしまいました。

さて、物語の中で語られるシンクロニシティを「不思議な偶然」として片づけてしまっては意味がありません。僕は、物語を読む中で、シンクロニシティに関して主に二つの教訓を得ました。

一つ目は、やはり人は自分が心の底からやりたいこと、やる必要があると思えることをやるべきだということです。欲求を突き詰めていくと、自分の利益と他人の利益が合致するポイントが必ずあります。それに対してコミットした時、まさに何かに導かれるように様々な偶然が起こって手助けしてくれる、それがこの本で本当に言いたかったシンクロニシティなのだと思います。本の中では、方向は決めるが目的地は決めない、何故なら流れに身を任せていれば導いてくれる、というようなことが書いてありましたが、この言葉の意味するところがやっとわかったような気がします。

もう一つは、著者に強い意思だけでなく、積極的で行動力があったこと。強い意思があれば、強く信じていれば、それだけでどんどんいいことが起こるわけではありません。自ら積極的に行動を起こし、他人を巻き込み、その連鎖が続くことで偶然としか思えないような結果が生まれました。「強く願えば思いは叶う」という言葉がありますが、それは暗に「強く願えばこそ、それにまつわるあらゆる行動をいとわない」という意味をも含んでいるのだと思います。

ところで、このシンクロニシティと副題の「リーダーシップ」とはどう関係があるのでしょう?僕も本を読み始めたときに疑問に思いました。読んでみるとわかりますが、この二つは直接的に関係はありません。著者はあるきっかけから、世の中を変える次世代のリーダーを育てなければ、という思いに駆られます。それを実現すべく著者自身もリーダーシップを発揮していくのですが、そうして行動をしていくうちにシンクロニシティと言うべき出来事が次々と起こっていきます。

シンクロニシティについては上記で少し触れましたが、著者が言う「リーダーシップ」もまた、とても示唆に富んだ内容になっています。著者が言うリーダーシップとは、「サーバント・リーダーシップ」というものです。これについてとあるエッセイを引用し、このように述べています。

グリーンリーフはこう述べている。リーダーシップの真髄は、互いに奉仕しあいたいという願望、自分たちを超えたものに、より高い目標に奉仕したいと言う願望である、と。伝統的な私たちの考え方では、「サーバント・リーダーシップ」というのは矛盾した表現であるように思われる。しかし、さまざまなつながり合いから成り立っている世界においては、関連性こそがこの世界を秩序だてる原理であり、その表現はきわめて理にかなっている。

サーバントとは奉仕者という意味です。まさに、僕たちが普段思っているリーダーとは逆のイメージですね。リーダーに仕えるのがサーバントなのでは?と思ってしまいます。しかし、そうではなく、チームのメンバーに「奉仕」し、世の中に「奉仕」することがリーダーシップである、ということのようです。

リーダーに関してはこうも言っています。リーダーシップとは、「すべきこと」ではなく「あり方」なのだと。リーダーとは何かを考える時、「リーダーとはこういう行いをすべき」という行動面からから考えるのではなく、「われわれは共同で、何を創り出すことができるか」という姿勢を持つ、高い目標に奉仕できるマインドセットこそ、リーダーシップなのでしょう。こう捉えれば、リーダーシップは特定の人しか持っていない資質ではなく、考え方を変えることによって誰もが持ち得る考え方だということが理解できます。

本書は、物語の形式をとってはいますが、単なる事実ではなくそれが意味するところも十分に語られており、とにかく理解がしやすいです。ただ、理屈ではなく感覚で理解する必要がある部分もあるので、それはこれからまた読み返し、考え、そして行動を通して身につけていきたいと思っています。

本書の内容は、以前ご紹介した「U理論」とも深い関連があります。本書の内容をさらに深め、実践的なセオリーにしたのがU理論とのことですが、U理論を理解するためのヒントとしてもとても役に立ちました。

リーダーシップ、シンクロニシティ、そして物語。一冊で三度おいしい本です。この本を読み終わった後、自分もいよいよ夢の実現に向けて動き出さなければ、という決意に近い思いに至りました。夢がある方、世の中を変えたいと思っている方にはお奨めですよ!監修者解説にも、このような人に読んでほしい、と書かれていました。

  • 夢を探している人
  • 夢を再チェックすべき中年の人
  • 「リーダーシップの旅」が自分の夢とかかわると思っている人
  • 人々とのつながりを大切にしている(もっとそうしたいと思っている)人
  • 「自己実現」や「個性化」は、理解するのも実践するのも難しいと思っている人

これに少しでも該当すると思った方は、是非読んでみてくださいね!

選択の科学

今日は、シーナ・アイエンガー 著の「選択の科学」という本をご紹介します。著者であるシーナ・アイエンガーはコロンビア大学ビジネススクールの教授で、盲目の人気女性教授として有名な人です。本書を読んだ時にはとても感銘を受けたのですが、残念ながら当時は何も記録をしていなかったので、改めて記憶を呼び起こしながら纏めてみたいと思います。

まず最初に「オリエンテーション」として、何故著者が「選択」を研究対象として選んだのかが語られます。著者は自分の人生を振り返り、運命論や偶然の産物、という観点から語ります。つまり、自分の人生の物語は生まれた時から既に決まっていたのだ、という立場(運命論)や、人生は地図のない場所を進んでいくようなもので、自分で決められることがどれほどあるのか?という立場(偶然の産物)です。

しかし、第三の物語を語ることもできる、と著者は言います。それこそが、自分の物語を「自分で選んだ」という立場で語ることです。それについて、このように書かれています。

わたしは自分の人生を、すでに定められたもの、両親の意向に沿ったものとして考える事もできた。また自分の失明と父の死に折り合いをつける一つの方法として、それを自分の意思を超えた、思いがけないできごとの重なりと見なすこともできた。しかし、自分の人生を「選択」という次元で、つまり自分に可能なこと、実現できることという次元でとらえた方が、はるかに明るい展望が開けるように思われたのだ。

このようなきっかけから、著者は「選択」をテーマに研究を進めるようになったと言います。この本では「選択」を様々な観点から考え、「選択」が僕たちの人生に与える影響に関する様々な疑問に取り組んでいます。

自分の現在の状況、つまり今までの人生の物語は自分の選択の結果である、という考え方はとてもパワフルで、主体的なものだと思います。それを自分以外の誰かに委ねたり、他人のせいにすることは可能ですが、自分の人生のコントロールが自分にないのだとしたら、前に進む活力など湧いてくるでしょうか。

「選択ができる」とは自由であるということです。そして自由には責任が付きまといます。今までの人生が自分の選択の結果だとしたら、その責任は自分にあります。しかし、これから先どうやって生きていくかという「選択の自由」もまた僕たちにあるのです。この自由と責任を受け入れて生きていくことが、自分の人生に責任を持つ、ということではないでしょうか。このように考えると、「選択」が人生に及ぼす影響は測り知れませんよね。

さて、では本書でどのような論点が語られているのか、いくつかご紹介したいと思います。

まず、選択には力があるというお話です。僕たち人間は、身体だけでなく精神をも活用して様々な選択肢から最良のものを選ぼうとします。そうした行動が現在の人類の繁栄の一因になったとも考えられますが、さらに重要なのは、人間は「選択したい」という欲求を生まれながらにして持っているということだそうです。

この「選択したい」という欲求は非常に強いため、単なる目的達成のための手段ではなく、選択すること自体が目的になってしまうこともあるそうです。例として、高ストレス環境に置かれているはずの社長が高寿命である、という話が出てきます。つまり、状況を自分でコントロールしたいという欲求があり、それが満たされていると健康にも良い影響を及ぼすということです。選択できると感じることは、それだけで大きな力を持っているようですね。

次は選択とアイデンティティの関係についてのお話です。僕たちは、アイデンティティと選択の間を行き来しているのだと言います。「自分はこういう人間だからこれを選択するべき」、「これを選択した自分とは、こういう人間である」というように。これはつまり、「選択」も「アイデンティティ」も静的なものではなく、動的なプロセスであるということです。今まで自分がしてきた選択の積み重ねが自分を作ってきたように、これから行う選択もまた未来のアイデンティティを作っていくのだとすれば、自分にとって望ましい選択をしていくことがとても重要だと思います。

「選択は創られる」という章では、僕たちが無意識に受け取っている情報に、どれだけ影響されているかということが語られています。その最たる例が広告です。そう聞くと、僕たちは自分の決定権が脅かされているような気になります。そしてそれは悪いことだと。それに対し著者は、自分の価値観を脅かすような影響と、基本的に無害な影響を分けて考えた方がいいと言っています。本当に重要な選択にのみ注意を払い、つまらない選択に悩む必要はないのでは、ということですね。

最後の章では、選択と不確実性に関する記述があります。選択に力があるのは、それがほぼ無限の可能性を秘めているからだと言います。もし仮に未来が既に決まっていたとしたら、選択には価値はありませんよね。つまり、選択の力を最大限に活用しようとすれば、この世界の不確実性を認めなくてはならないのです。そんな不確実な世界を切り開いていく武器として、また自分を形作る材料として、納得できる選択をしたいものです。

この本には、他にも「選択をしないという選択肢もある」「選択肢が多いことは必ずしも利益にならない」など選択に関する興味深い論点が沢山紹介されています。「選択」にフォーカスした本はなかなかないと思うので、興味がある方は是非読んでみることをお勧めします。内容もそれほど難しくなく、身近な例なども沢山出てくるので読みやすいですよ。

その幸運は偶然ではないんです!

今日は、J・D・クランボルツ & A・S・レヴィン 著の「その幸運は偶然ではないんです! 夢の仕事をつかむ心の練習問題」という本をご紹介します。この本の著者の一人であるJ・D・クランボルツという人は、スタンフォード大学の教育学・心理学教授で、キャリアカウンセリング理論の先駆者だそうです。

この本のタイトルを見たときに、真っ先に「セレンディピティ」という言葉が思い浮かびました。皆さんは「セレンディピティ」という言葉はご存知でしょうか?「セレンディップと三人の王子」という童話に因んで作られた言葉ですが、「偶然に幸運をつかむ能力」という意味だとされています。「能力」というからには、それを身につけることで幸運を掴める、あるいは掴みやすくすることができるのでしょうか?そこにとても興味があり、本書を手に取りました。

さて、本書の主張はまさにタイトルの通り、「幸運は偶然ではない」です。「はじめに」には以下のように記されています。

幸運やチャンス、予期せぬ出来事に関する本はたくさんありますが、この本はほかの本とは少し違います。私たちは「幸運は偶然ではない(Luck is No Accident.)」と考えているのです。
キャリアや人生を前に進めるような予想外の出来事が起きて、それが本物のチャンスに変わるときには、その人自身が重要な役割を果たしています。この本はキャリアについて書かれていますが、その内容は、人生のほかの場面、たとえば恋愛にも応用できるものだと私たちは考えています。

著者はキャリアカウンセラーですので、キャリア選択についての話題がほとんどですが、ここに書かれているようにこの本の内容はとても汎用的なもので、ありとあらゆることに応用が可能だと思います。

では、幸運は偶然ではない、とは一体どういうことなのでしょうか。必ず幸運を掴めるような決まったやり方があるのでしょうか?残念ながらそういうわけではありません。著者は、「人生には予測不可能な偶然の出来事が必ず起こるので、結果をコントロールすることはできない」とした上で、「行動次第では、その結果を望ましいものにする確立が高められる」ということが言いたいのです。

では、その行動とは、どのような行動なのでしょうか?この本の中には様々なアドバイスが含まれていますが、僕が重要だと思ったポイントを纏めてみました。

  1. 「想定外の出来事は必ず起こる」ということを理解しておく
    人生では、自分の想定していない出来事が沢山起こります。未来がどうなるかは誰にもわからないし、完全にコントロールすることはできません。全てが思い通り、という風にはなかなかいかないものだ、ということを理解しておきましょう。
    ただ、自分の行動や、物事に対する反応は自分でコントロールすることができますよね。実際には、これらが人生の方向性を決める重要な要因なのです。
  2. 想定外の出来事が起こった時の対処が重要
    想定外の出来事には、良いことも悪いこともあります。悪いことが起こった時、悲嘆にくれてふさぎ込む人もいますが、それをきっかけに建設的な行動を起こしてチャンスをつかむ人もいます。つまり、想定外の出来事が起こった時、どのように反応するかが重要なのです。逆に良いことが起こった時は、逃さずに掴み取りましょう!そのためには常にアンテナを張っておくことも重要だと思います。
  3. 積極的な行動で良い出来事を起こす
    想定外に良いことが起こった場合、それが単なる幸運や偶然とは言い切れません。大抵の場合、そうした出来事は連鎖して起こるためわかりにくいですが、本人の積極的な行動がそのような出来事を「起こして」いるケースも多々あると思います。想定外の出来事に対する反応、という受け身の姿勢だけでなく、自分から「起こす」という積極的な姿勢が重要ですね。
  4. 選択肢に対して常にオープンでいる
    著者は、「今後一切、自分のキャリアに関して意思決定をするな」と説きます。これは、複雑に変化する昨今の状況において、一つの選択にこだわり続けることは視野を狭くしてしまうということを言っています。つまり、固執することで他のより良い選択肢が見えなくなってしまうということですね。自分が見えていないだけで、実はもっともっと沢山の選択肢があるかも知れませんよ。
  5. 情熱は行動の前だけにあるのではなく、行動の結果として生まれることもある
    僕は今まで「情熱ありき」だと思っていました。が、自分の情熱がどこにあるのかわからない、と思っている人が悶々と考えていても何も始まらない、情熱は行動によって作られることもある、というこの意見はとても現実的で正しい意見だと思います。人には人それぞれの情熱があります。それを明確に認識できている人はいいですが、そうでない人はある程度方向性をつけたら先に行動を起こした方がいい、ということだと思います。
  6. 何もしなければ、何も起こらない
    未来はどうなるかは誰にもわからない、と書きましたが、例外があります。それは、何もしなければ確実に何も起こらない、ということです。つまり、何かを起こしたければ、リスクを取って行動すべきだということですね。例え失敗しても、次に何が起こるかはわかりませんし、そこから学べることもあるでしょう。失敗を恐れず、新しいことに挑戦しましょう。本当に恐ろしいのは、失敗することではなく、失敗を怖れて何もしないことなのですから。

この本には、普通の人たちがどんな行動によって幸運を掴むことができたか、というエピソードが沢山紹介されています。説明と合わせて実例を読むことで、さらに理解が深まると思います。各章の最後にはワークもついており、キャリアに悩んでいる方はもちろん、幸運を掴みたい方には是非おすすめの一冊です。是非読んでみてくださいね!