人を動かす[超]書き方トレーニング

今日は、苫米地英人 著の「人を動かす[超]書き方トレーニング 劇的な成果が手に入る驚異の作文術」という本をご紹介したいと思います。著者の苫米地さんという人は、脳機能学者で、オウム真理教事件の際には信者の脱洗脳にも関わったらしいです。

著者はネットや書評などで様々な言われ方をしているようですが、僕が読んだこの本に関しては大変まともな文章術の指南書でした。詳細な文法などの話は出てきませんが、人に読んでもらうための文章をどうやって書けばいいのか、その力を鍛えるためにはどうすればいいのか、が明快に書かれているお奨めの一冊です。ただし、対象としている文章が一般的な文章で、小説などの文芸作品ではないので、その点は注意が必要です。

当たり前のことですが、何かを書き、人に読んでもらうからには、何らかの形で「役に立つ」必要があります。著者は、「書き手は読み手よりも知識量が圧倒的に多いことが前提」としています。これは一般的な文章が情報の伝達を目的としているので、書くべき内容がないのに文章力を挙げても意味がない、ということなのでしょう。基本的なことですが、何かを伝えるには少なくともある程度の勉強は必要、ということは肝に命じておきたいですね。

この基本を押さえた上で、僕が参考になったポイントをいくつかご紹介します。

全体像ができあがってから書きはじめる

これも当たり前のことなのかも知れませんが、僕は文章を書こうと思い立ち、構成を考えずにすぐに書き始めてしまうことがよくあります。こうして書き始めた文章は、運が良ければ当初の目的通りの文章になりますが、場合によっては途中でどんどん脱線し、書き終わってみたら別モノになっていた、なんてこともあります。

本書では、「ゲシュタルト」という概念でこれを説明しています。ゲシュタルトとは、部分の総和以上の全体が出来上がること、と定義されています。例えば音楽は音符の集まりですが、全体として見たときに音符の集まり以上の「楽曲」というゲシュタルトになります。文章もこれと同じで、単なる単文の集まりではなく、全体としてゲシュタルトとして完成されている必要があるのです。

構成を考えてから文章を書く、というのはここで言うゲシュタルトを先に作ってから書き始めるということです。それができていないと、意図したゲシュタルトとは別のものができてしまったり、意味のわからないゲシュタルトができてしまったりします。

スコトーマのジレンマを解消する

耳慣れない言葉ですが、人に文章をきちんと読んでもらうためには、「スコトーマ」を解消しなければならない、と著者は言います。スコトーマとは、既成概念にとらわれすぎることで、新しい情報が見えなくなる状態を指します。人の脳は新しい情報を取り込む時、既に持っている情報との関連付けで認識するのですが、この「既に持っている情報」というのが曲者なんですね。新しい情報を目にしても、「既に知っている」と勘違いした情報は頭に入ってこないということになってしまうからです。

つまり、人間の脳はしっていることしか認識できないけれど、知っていると思った瞬間にスコトーマの原理がはたらいて認識できなくなる、というジレンマがあるらしいのです。著者はこれのスコトーマを外すことが重要だと説きます。これは別の言い方をすれば、先入観をなくす、ということです。

スコトーマを外すというのは、それまで重要だと思っていなかったこと、スコトーマに隠れて認識されていなかったことが実は重要なことなのだと読者に気付かせてあげるということです。

具体的なテクニックとして、「文章を貫くコンセプトは一つに絞る」「キーワードはきちんと定義してい使う」などが紹介されています。どれも文章の基本だと思いますが、そうしなければならない理由をきちんと理解することができました。

論理的な文章を書く

論理的な文章とはどういうものでしょう?著者は、よく言われている三段論法は不確実な要素を表現できないため机上の空論だと言っています。それに変わる論法として「トゥールミンロジック」を使うべき、としています。これもまた聞き慣れない言葉ですが、要約すると以下のようになります。

  • 文章には、「データ」「ワラント」「クレーム」の3つの要素が必要。
  • データとは、主張する内容を裏付ける事実のこと。
  • ワラントとは、提示したデータがなぜ主張する内容を裏付けることになるのかという根拠のこと。
  • クレームとは、主張したい内容そのもの。
  • ワラントが抜け落ちることが多い。

他にも、「バッキング」「クオリファイヤー」「リザベーション」という要素があります。これらは三段論法に欠けている不確実性を補うためのものです。例外や、主張の強度(確立など)がこれに当たります。

書くための感性を磨け

最後の章に書いてあることがなかなかおもしろかったので紹介します。著者は人を動かす文章を書くには、文章力と感性が必要と言っているのですが、この「感性」は論理を超えたところにある、というのです。感性と論理は通常相対する概念として捉えられることがありますよね。しかし、論理を完全に極めたその先にあるのが感性だ、そしてその感性を発揮するにはやはり圧倒的な知識量が必要だ、というのはなるほどと思わされました。

この本では具体的なトレーニングの方法や、実際に文章を組み立てていく実例なども示されているので、読むだけでなく実際に手を動かしてトレーニングしていけば文章力が鍛えられると思います。詳細な文章テクニックを学ぶ前に押さえておいた方がいいポイントが沢山書かれているので、文章が苦手な方は是非読んでみては如何でしょうか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です