今日は、マルコム・グラッドウェル 著の「第1感 『最初の2秒』の『なんとなく』が正しい」という本をご紹介します。
僕は常々、直感とは何だろうと思っていました。ちょっと調べているうちに、「直感」と「直観」という二つの言葉があることを知りました。厳密にはこれらは意味が違っていて、直感は「感覚的に物事を瞬時に感じとること」、一方直観は、「五感的感覚も科学的推理も用いず直接に対象やその本質を捉える認識能力」だそうです。(Wikipediaより)
最初から脱線してしまいましたが、この本ではどちらかというと「直感」について書かれた本だと言えると思います。様々な心理学の実験を元に直感とは何かを考察していくのですが、著者が雑誌のライターということもあってか、とても読みやすく面白い内容になっています。
ところで、タイトルにある第1感とは何でしょうか?訳者のあとがきにはこう書かれています。
世間には「第六感」という言葉があるが、あれは身体的な(したがって理屈で理解可能な)五感の優越を前提として、理屈を超えた六つ目の感覚を想定している。そうではなく、五感に優越する第1感があるのではないか。
なるほど。確かに直感というものをこういう風にとらえることもできそうですね。では、この直感とはどういうものなのでしょうか。
まず、直感とは、限られた情報で物事の本質をつかむ能力と言うことができます。例えばパッと見ただけで何かおかしいと感じたりすることです。科学的に入念な調査をしたわけではない状態(情報が限られている状態)で物事の判断をする時、僕たちは「輪切りの力」というものを使っているのだそうです。
これに関する面白い事例があります。夫婦喧嘩の様子を撮影した15分間のビデオを分析して、その夫婦の15年後を予測するというものです。何だそんなの簡単だよ、と思うかも知れませんが、実際にやってみるととても難しいのだそうです。15分間のビデオには態度、口調、言葉、表情など膨大な情報が入っており、ちゃんと分析しようとすると情報が多すぎるのです。
そこで、注目する要素を絞ってみたところ、90%前後の確立で夫婦の未来を予測できたそうです。著者は、僕たちが直感的に何かを感じる時、同じようなことをしているのだと言います。すなわち、対象を輪切りにして、不必要な要素を捨てて重要な要素に集中する、ということです。この考え方で行けば、どの要素に着目するかを正しく設定することで、直感の精度を上げられるような気がしますね。
次に、直感は瞬時に、そして無意識に起こるということです。これは何を意味しているかというと、直感を下した本人もその理由がわからないということです。そのような状況で説明を求められると、人間はその理由を「でっちあげる」のだと言います。
何かを選ぶ時も無意識であることが多いそうです。数ある商品の中から何故これを選んだのかという理由を説明させてみても、素人にはうまく説明できないそうです。そればかりか、もっともらしい理由を思いつき、本当の好みをその理由に合わせてしまうのだとか。これは何となくわかるような気がしますね。ちなみに、このような現象を「言語による書き換え」と呼ぶそうです。直感で感じた記憶が言葉にすることによって書き換えられてしまうんですね。
一方、プロは違います。理由を語る語彙も、評価する尺度も、経験も持っています。これを著者は、以下のように語っています。
無意識の感想は閉じた部屋から出てくる。部屋の中はのぞけない。でも経験を重ねれば、瞬時の判断と第一印象の裏にあるものを解釈し、意味を読み取れるように行動し、自分を訓練できるようになる。
ここでも、直観は訓練することができる、という主張が出てきていますね。
最後の章では4人の警官による誤射事件を通して、「心を読む力」について考えます。様々な証言などが織り交ぜられていて面白いです。僕が一番面白いと思ったのは、人の感情は必ず顔に現れる、というくだりです。表情記述法(FACS)という方法を使えば、表情により送られているメッセージを驚くほど理解することができるのだとか。これは興味深いですね。
この章で取り上げられている誤射事件では、この「心を読む力」が機能しませんでした。その理由は、人は興奮すると相手の心が読めなくなるから。人は命の危険にさらされると、目が冴えたり、視野が狭くなったり、音が消えたり、時間の感覚がゆっくりになったりするそうです。それは生存するために不要な情報を遮断するからなのですが、それが進み、心拍数が175を超えると、認知プロセスが完全におかしくなるのだとか。
腹を立てたり、脅えている人と議論しようとしたことはないだろうか?無理だ。・・・犬と議論するようなものだ。
確かに、感情的になっている時に議論することも不毛さは、僕もたびたび経験があります。そういう時は、頭を冷やして仕切りなおした方が賢明ですね。
さて、如何だったでしょうか。本書の中にはもっと様々な実験データ等も取り上げられており、とても面白いです。学術的な言葉も出てはくるのですが、とても平易に書かれているためにすぐ読めてしまいました。直感の正体について興味がある方は是非読んでみることをお奨めします!