ユーザーイリュージョン

今日は、トール・ノーレットランダーシュ 著の「ユーザーイリュージョン 意識という幻想」という本をご紹介したいと思います。著者はデンマーク人で科学ジャーナリストの人物。この本のデンマーク語版は13万部(人口比で換算すると、日本では250万部相当)も売れ、以来8ヶ国で翻訳・出版されたということです。

500ページを超える大書で、価格も4,200円とかなり読み応えのある本です。僕は以前から読みたいと思っていたのですが、幸運にも近くの図書館で見つけることができたので読んでみることにしました。

この本の主題は「意識」です。タイトルにユーザーイリュージョンとありますが、これはパソコンのユーザーインターフェースを考えるとわかりやすいでしょう。パソコンの画面にはデスクトップがあり、フォルダやゴミ箱が配置されています。しかし、実際にそこにフォルダやゴミ箱があるわけではありませんよね。意識も同じだということです。イリュージョン(幻想)とある通り、意識とは幻想、錯覚なのだというお話です。

この考え方自体は以前にも神経科学の本で読み、既に知っていた論点なのですが、本書はそれをものすごく掘り下げていったという感じです。また、扱っている分野も極めて多岐にわたります。始めて聞くような分野の話も沢山あり、僕も正確に把握できていないので訳者あとがきから引用してみましょう。

さて、本書「ユーザーイリュージョン」だが、著者の構想の雄大さと知識・調査範囲の広さには圧倒される。物理学、熱力学、統計力学、情報理論、サイバネティックス、心理学、生理学、生物学、哲学、社会学、歴史学、宗教、倫理と、様々な分野に話がおよび、カオス、フラクタル、エントロピー、ブラックホール、複雑系、ガイア、「外情報」、「私」、「自分」といった用語が飛び出す。

本当に、著者の守備範囲の広さには圧倒させられます。情熱というか、この本に対する思い入れが伝わってきます。それでいて、難解すぎることもなく、文系の僕でも最後まで読み切ることができました。扱っている話題が話題なので、決して読みやすい本とは言い難いかも知れないですけどね。ただ、知的好奇心をこれでもかと刺激してくるので、なかなか良いペースで読めたと思います。

さて、構成を見てみましょう。本書は4部構成になっていて、メインとなる「意識」について書いてあるのは2・3部です。1部は主に熱力学、情報理論について書かれており、4部ではガイア、カオス、フラクタルなどが紹介され、結びへと繋がります。手っ取り早く「意識」についての話を知りたい方は、2・3部だけを読んでも十分に楽しめる内容だと思います。

では、この本で僕が学んだこと、なるほどと思った論点の中からいくつか紹介したいと思います。

まず、「情報」について。通常、ある物事についての情報を誰かに伝えようとする際、その物事について「そのまま」伝えるというのは難しいですよね。縮尺が1/1の地図を作るようなものです。普通は膨大な情報の中から、伝える必要のない情報を捨て、纏め、編集して伝えるということをします。この本によれば、実際に伝えられた情報そのものはたいして重要ではないのだと言います。重要なのはその情報が発信される前までに、どれだけの情報が捨てられてきたか、それが情報の深さを表しているのだと。

これは、僕たちの通常の感覚には反します。情報量が多い、といった場合、伝えられるメッセージそのものの量が多い、という風に解釈しますが、情報理論では捨てられた情報の量で情報量を計るようですね。

この考え方を知って個人的に思ったのは、情報が氾濫している昨今で、如何に情報を捨てるかということの重要性は、どんどん高くなってきている気がします。膨大な情報の中から取捨選択し、自分なりにどう理解するのかが重要ですよね。仕事で何かを調査する場合などでも、調査した資料をそのまま提示しても、何も伝わりません。その中に何らかの意味を見出し、メッセージとして集約する作業が必要になります。

続いて話は「コミュニケーション」へと移ります。上記の考え方で行けば、伝えられるメッセージは、既に大量に情報が処分されたものである可能性が高い。なのに、何故伝わるのか、という問題です。これを考えるために、この本ではコミュニケーションのプロセスが紹介されているのですが、なるほどと思いました。

まず最初に、発信側が考えます。何かの経験や感情、記憶などを集約しメッセージを作る過程で沢山の情報が捨てられます。充分に集約されると、最後に何かしら口に出して言える言葉が残ります。これが会話を通して相手に伝わります。伝えられる側では、伝わってきた言葉に込められた意味を明らかにするために頭の中で解きほどかれます。集約→伝達→展開、というのがコミュニケーションなのだ、という考え方ですね。

物事を伝えるには如何に集約するか、物事を理解するには如何に展開するか、という考え方はとてもわかりやすいと思いました。集約前の情報と展開後の情報が似たようなものになったとき、「伝わった」ということになります。

さて、この辺りから意識の話に入ります。僕たちの無意識は、日々膨大な情報を処理していると言われます。そのうち、意識の上るのは100万分の1だとか。実際に僕たちの行動の大部分は無意識のうちに行われていると言います。それ自体も驚くべきことなのですが、意識は、それだけの情報をリアルタイムに捨てていると考えることができます。それだけの情報処理をするのには時間がかかるはず、ということで本書のテーマである「0.5秒」という内容に入っていきます。

この0.5秒という数字、人が行動しよう!と意識する0.5秒前に脳の中では既に行動を開始する脳波が出ている、という実験や、人が何かを知覚する際、刺激より0.5秒遅れて自覚する、という実験から導き出されたものです。しかし、何か刺激を受けると、僕たちは即座に反応しますよね。これは、脳が時間の繰り上げ調整を行って、リアルタイムに経験しているようにしているためにそう感じるのだそうです。じ、時間の繰り上げ調整!?

意識や脳に関する本を読んでいると、こういう刺激的な内容がどんどん出てくるんですよね。この本も例外ではありませんでした。錯覚の話なども出てきますが、結論として導かれるのは、意識というのはユーザーイリュージョン(つまり幻想)であって、僕たちは「ありのままの世界」を経験しているわけではない、ということになると思います。

こういう話を聞いてどのように解釈するのかは人それぞれだと思いますが、訳者あとがきに、それに関する著者の主張がうまくまとめられているので、それを引用しておきたいと思います。

そこで、人間は意識がイリュージョンであることを自覚しなければならない。意識ある「私」と無意識の「自分」の共存が必要だ。「私」が自らの限界と「自分」の存在を認め、「自分」を信頼し、権限を委ねることが「平静」の鍵となるというのも、理にかなっている。

さらに、本文で僕が気に入った一節も。

人はお互いについて、意識が知っているよりはるかに多くを知っており、またお互いに対して、意識が知っているよりはるかに多くの影響を与え合っているからだ。人間はなんとしても、自分が身体の芯から正しいと思うことをやらなくてはいけない。なぜなら、その効果は私たちが意識しているより大きいからだ。
私たちは自分の行動の主導権を意識に委ねてはならない。意識を働かせ、熟慮したうえで、最も適切だと思えることだけを実行するようではいけない。直感に従って行動すべきだ。

如何でしょうか。無意識の存在を認め、信頼し、ある程度委ねるべきだ、という主張がなされていますね。無意識も含めて「自分」なのだという認識を持ち、無意識の反応である直感を信じろということなのでしょう。

自分のことは全て把握しているというのは、少々思い上がりなのかも知れませんね。自分についてでさえ、知っているのは一部分であるし、知らない部分も含めて自分なのだから、どちらの自分も喜ぶような生き方を目指したいものです。そういう生き方が出来た時、著者の言う大きな「効果」が生み出せるのかも知れません。

この本は纏めるには内容が充実しすぎていますし、僕が無知な故に間違って解釈している部分もあるかと思います。こういう内容に興味を持たれた方は、是非本書を手にとって読んでいただけたらと思います。色々なことを考えさせてくれると思いますよ!おすすめです。

幸せがずっと続く12の行動習慣

今日は、ソニア・リュボミアスキー 著の「幸せがずっと続く12の行動習慣」という本をご紹介したいと思います。著者は心理学の教授で、ハーバードで学士を、スタンフォードで博士を取ったようです。すごい経歴ですね。

この本は、「幸せ」というものを真剣に研究し、幸せになるためにはどうすればいいのかを科学的な観点から解き明かした本です。結論から言うと、本当に素晴らしい本でした。

僕が見た時点では、Amazonでのレビューが全て5点満点(!)だったのですが、実際に読んでみて充分に頷ける内容だと思いました。「幸せ」という難しいテーマにこだわって研究している著者の熱意もすごいですが、書かれていることは全て裏付けがあり、怪しげな自己啓発本とは一線を画しているという所がポイントだと思います。

伝統的な心理学では、精神疾患の治療に重きが置かれていたため、どちらかというとネガティブな状態をゼロに戻す、そんな研究が主となってきました。しかし近年、心理学の知見をもっとポジティブに生きるためにも使えるのではないか、ということで「ポジティブ心理学」なるものが注目されているようです。この本もそのポジティブ心理学について書かれた本です。

さて、この本を読んでいてまず勇気づけられるのは、「人の幸せは何によって決まるのか」について書かれた部分です。その答えは、「遺伝」「環境」「意図的な行動」です。さらに、それぞれが人の幸福感に与えるインパクトは、50%、10%、40%という割合になっています。皆さんはこの数字を見て、どのように思われるでしょうか。

間違えて欲しくないのは、「実際に幸せかどうか」ではなく、「幸せだと思うかどうか」がこの割合で決まるということです。その上でこの数字を見てみると、やはり遺伝の影響は大きいですね。著者はこの遺伝によって決まる部分を、基準点(初期設定値)という呼び方で読んでいます。人が感じる幸福度は、生まれつきある程度決まっていて、様々な出来事によって上下動はするものの、ある程度の時間が経つと基準点に戻る特性があるようです。

次に環境ですが、10%しかないというのが面白いですね。これについて著者の言葉を引用してみましょう。

おそらく、最も意外に思われるであろう結論をこの円グラフは示しています。「裕福か、貧乏か」「健康か、病気がちか」「器量がいいか、人並みか」「既婚者か、離婚経験者か」などの生活環境や状況による違いは、幸福度のわずか10%しか占めない、ということを。

この原因は、「快楽順応」というキーワードにあります。人は、環境の変化に、驚くほど早く「慣れてしまう」のだそうです。著者はこの原因として、願望がどんどん大きくなっていくこと、まわりの人と比較してしまうこと、の二つを挙げています。著者によれば、「多くの人が幸せになるために環境を変えようと努力するが、これこそ幸せを追求する上での最大の皮肉」だそうです。

さて、遺伝と環境、合わせて60%ですが、遺伝は変えられるものではありませんし、環境は変えるのに大きな労力を要する割には効果が小さい。そう、鍵は残りの40%、つまり「意図的な行動」にあるというのが本書のテーマです。行動習慣を変えることによって、幸福度は高めることができる、というわけです。

ちなみに、監修者のあとがきにもありましたが、40%までしか幸せになれない、という意味ではありません。40%を使って非常に幸福な状態になることも可能です。これは体重に例えることができます。元々太りやすい体質かどうかは遺伝で決まりますが、適切な栄養管理や運動を行うことで痩せることは可能です。幸せについても同じ。元々幸福度を感じにくい体質であっても、意図的な行動によって幸せになることはできるのです。

では、その意図的な行動とは一体何か?タイトルにもあるように、12の行動を習慣付けることが提案されています。しかし、一度に12もの行動を行うのは無理があります。そこで、「幸福行動診断テスト」というものがあります。これは、12の行動のうち、自分に合ったものがどれかを診断するためのテストで、まずはテストで得点の高かった4つから行動に移しなさい、とされています。12の行動とは、下記のような内容です。

  1. 感謝の気持ちを表す:自分が恵まれていることを数えあげるとか、これまできちんとお礼を言ったことがない相手に感謝やありがたいという思いを伝えること。
  2. 楽観的な気持ちを高める:将来の最高の自分を想像したり、それについて日記に書いたり、あるいはどんな状況でも明るい面を見ること。
  3. 考えすぎない、他人と比較しない:問題についてくよくよ悩んだり、自分を他人と比較したりしないために何かをすること。
  4. 人に親切にする:相手が友人であっても見知らぬ人でも、直接にでも匿名でも、その場の偶然でも計画したものであっても、人に親切にすること。
  5. 人間関係を育む:もっと強めたい人間関係を選んで、それを深め、確認し、楽しむために時間やエネルギーを注ぎ込むこと。時には修復することも含む。
  6. 問題に立ち向かうための対策をとる:最近のストレスや困難を克服したり、トラウマから学んだりする方法を身につけること。
  7. 人を許す:日記をつけたり手紙を書いたりして、あなたを傷つけたりひどい扱いをした人への怒りや恨みを手放そうとすること。
  8. 心から打ち込める活動をもっと増やす:家庭や職場で「我を忘れる」ほど打ち込め、やりがいがあり没頭できる経験を増やすこと。
  9. 人生の喜びを深く味わう:人生の喜びや驚きの時間にもっと注意を向け、そのことを味わい、思い出すこと。
  10. 目標の達成に全力を尽くす:自分にとって意味のある重要な目標を1つ~3つほど選び、時間を費やして追い求める努力をすること。
  11. 宗教やスピリチュアルなものに関わる:教会や寺社などにもっと足を運び、スピリチュアルなものをテーマにした本を読んだり、そうしたものについて考えたりすること。
  12. 身体を大切にする:運動や瞑想を行うこと。

注目すべきは、これらの行動に幸福度を高める効果がある、ということが少なくとも現在の心理学で実証されているということだと思います。ちなみに僕は、楽観的な気持ちを高める、人間関係を育む、心から打ち込める活動をもっと増やす、人生の喜びを深く味わう、という4つが当面の行動目標になりました。

もちろん、本書にはそれぞれの行動についての詳細や、具体的にどんなことをすればいいのかなどがきちんと示されています。誰もが幸せになりたいと願っています。しかしその方法を見つけることは難しいですし、あったとしても怪しげな感じがしますよね。この本はその点にとても配慮して書かれていると思いますので、どんな方にもオススメできる一冊です。幸せになりたい!という方は是非読んでみてくださいね。

感情力 自分をコントロールできる人できない人

今日は、フランソワ・ルロール & クリストフ・アンドレ 著の「感情力 自分をコントロールできる人できない人」という本をご紹介したいと思います。著者は二人とも精神科医なのですが、一般の人向けに書かれていてわかりやすいです。また、文章から優しさのようなものが感じられるからでしょうか、読むと楽になれるような気がします。

さて、この本のテーマは「感情力」。感情力とは何かというと、感情の力をうまくコントロールする力のことです。この感情力、概念としてはEQ(感情知能)にとても似ているのですが、感情をうまく表現したり、それを踏まえて行動したりする「能力」にフォーカスするためにあえてこのような表現を使っているとのことです。本書では、以下の要素を「感情力」としています。

  • 怒りでも悲しみでも嫉妬でも喜びでも、自分がどんな感情を抱いているかに気づき、またそのことを率直に認める能力
  • 人間関係を壊すのではなく、コミュニケーションがうまくいく形で感情を表現する能力
  • 感情に突き動かされたり、反対に激しい感情のせいで何もできなくなったりするのではなく、感情をうまく利用して適切に行動する能力
  • 相手の感情を理解し、適切に反応する能力

先日ご紹介した「サーチ!」という本でもご紹介した通り、EQは自分を省みる能力、他者と共感する能力のことです。たしかに、感情力とEQはとても似ていますね。

感情と言っても様々な種類の感情があります。著者は、感情にはいくつかの基本的なものがあり(基本感情と言います)、それらが結びつくことで複雑な感情ができあがっていると言います。どの感情が基本感情にあたるかは諸説あるようですが、本書を読む限りでは、チャールズ・ダーウィンが唱えた「喜び」「驚き」「悲しみ」「恐怖」「嫌悪」「怒り」の6つが有力なようです。

ある感情が基本感情かどうかを見分ける基準は、いくつかあるようです。

  • 突然感じられること
  • 長く続かないこと
  • ほかの感情と区別がつくこと
  • 赤ん坊にもあること
  • 特有の身体的な反応を伴うこと
  • 普遍的な表情を持っていること
  • 同じ経験をしたら誰もが感じるということ
  • 類人猿にも同じ様な感情が見られること

簡単にまとめると、基本感情は「反応」であり、我々人間(とその仲間)が生まれつき持っているもの、という感じでしょうか。

この本では、基本感情かどうかに関わらず、重要だと思われる感情について1章ずつ取り上げています。その感情とは、「怒り」「羨望」「喜び、上機嫌、幸せなど」「悲しみ」「羞恥」「嫉妬」「恐怖」「恋愛」です。

それぞれの章では、それぞれの感情がどのようなものなのか、何の役に立つのか、どのような仕組みで生まれるのか、そしてその感情とどううまく付き合っていくか等について丁寧に解説されています。具体的な例を交えた説明なので、とてもわかりやすいです。

感情は勝手に湧きあがってくるので特に意識したことはありませんでしたが、進化論的に考えると「その感情が今の我々に残っているというこは意味がある」ということになります。

例えば「怒り」には戦う準備をさせるという役割と、威嚇という役割があります。怒りは覚えると筋肉が収縮し、心臓の鼓動が速くなるのですが、これは素早く動くための準備なのだそうです。また、「怒り」の表情は世界共通であり、これを知らせることで無用な戦いを避けることができます。特に野生の世界では、戦いは死に直結する可能性が高いので、怒っていると伝えることで抑止力となるわけですね。

このように考えると、感情には意味があるということがよくわかります。ポジティブな感情なら大歓迎ですが、ネガティブな感情はできれば味わいたくないものです。でも、例えネガティブな感情が湧きおこってきても、その背後にある「意味」を理解していれば、ちょっと冷静になれるかも知れませんね。実際、このようなアプローチはカウンセリングなどで使われる認知療法で使われています。

個人的には、何を幸せと感じるかは性格に関係しているのではないか、という部分がとても面白かったです。性格分析には以前ご紹介した「ビッグファイブ」という性格分析アプローチが出てきます。実際に当てはまるかどうかは別にして、自分の性格から目指すべき幸せを考えてみる、というのも面白いかも知れません。

この本は、特定の感情がコントロールできなくて困っている方はもちろん、「感情」そのものについて勉強したいと思っている方にもとてもオススメの一冊です。気になる方は是非読んでみてください!

サーチ! 富と幸福を高める自己探索メソッド

今日は、チャディー・メン・タン 著の「サーチ! 富と幸福を高める自己探索メソッド」という本をご紹介します。著者はGoogleの人材育成担当者で、実際に行われているGoogleの研修プログラムを「オープンソース」として広めるために本にしたものだそうです。

プログラムの共同開発者は「EQ こころの知能指数」で有名なダニエル・ゴールマン。この人が関わっているのと、Googleではどんな研修が行われているのか、という興味から手にとって読んでみました。

この本のテーマはやはりEQ。対人関係や仕事の能力に影響するとされる、「情動的知能指数」のことです。著者はこのEQの中核を成すのは自己を知ることであり、そのためには「マインドフルネス」という心のトレーニングが重要だと説いています。

EQの詳しい解説はここでは省略しますが、EQは以前ご紹介したハワード・ガードナーの言うところの、「内省的知能」と「対人的知能」と対応しています。自分を省みる能力、他者と共感する能力、ということなのですが、その基礎となるのがやはり自己との対話、つまり自分をよく知ることなのだと思います。

では、ここで出てくる「マインドフルネス」とは何なのでしょうか?マインドフルネスの定義は色々あるようですが、「特別な形、つまり意図的に、今の瞬間に、評価や判断とは無縁の形で注意を払うこと」あるいは「自分の意識を今の現実に敏感に保つこと」などと言われているようです。そして、このマインドフルネスを鍛えるために瞑想をせよ、と言うのです。

瞑想?そう、瞑想です。正直、僕は今まで瞑想というものを科学的に捉えたことはありませんでした。自己啓発系の本を読んでいると、結構瞑想の話が出てくるのですが、「何か怪しい」という理由であまり注意を払ってきませんでした。僕はスピリチュアルな考え方は嫌いではありません。が、いざ自分が実践するとなると「何故それがためになるのか」という問いに納得できないとなかなか手が出ないのです。

しかし、この本を読んで瞑想に関す捉え方がガラッと変わりました。著者はこう言います。

瞑想には謎めいたところは少しもない。じつのところ、瞑想はたんなる心のトレーニングにすぎない。

よく考えてみれば著者はGoogleの社員で、元エンジニアだと言います。その彼が「瞑想が重要だ」と言うのはなかなか面白いですが、近年の神経科学の発展により、瞑想の効果が科学的にどんどん証明されているのだと言います。それどころか、あのダライ・ラマも瞑想の科学的な研究に好意的だと言います。以下はダライ・ラマの著書より。

もし科学的分析によって、仏教の主張の一部が誤りであることが決定的に立証されるようなことがあれば、私たちは科学の発見を受け入れ、誤った主張は捨てなくてはならない。

というわけで、僕も瞑想をやってみよう!という気になりました。しかし、なんか難しそうだしちゃんと続けられるだろうか、という心配もあります。ご心配なく、この本ではかなり低いハードルで、誰でも気軽に瞑想を体験し、持続できるような方法を沢山紹介してくれています。しばらく寝る前に少しずつ、瞑想をしてみようと思います。

さて、瞑想によってマインドフルネスとやらを鍛えたとして、どんな良いことがあるのでしょうか?瞑想とはつまり、自分の「注意」をコントロールする心の技術なのだと言います。自分の注意を意のままにコントロールできれば、自分の情動がどこに向いているか、自分はどんな人間なのか、などを明確に把握できるようになるそうです。そして自分をよく知るということは、自信に繋がります。

他にも自己統制、自己動機づけ、共感やリーダーシップ、こういったもの全てにマインドフルネス、つまり自分の注意をコントロールする能力が関わっているというのです。

自己認識(自分との対話)と他者との共感に一体どのような関係があるのかと疑問に思いながら読んでいたのですが、どうやら自己認識と共感は、使っている脳の部位が似通っているそうです。つまり、自己認識が優れている人は、共感能力も高いというわけですね。

さて、読んでいるだけでもとても面白いこの本ですが、実際にGoogleで高い効果を上げているとのことですので、是非僕もやってみようと思っています。興味がある方は、是非読んで、そして実際に試してみて頂きたいと思います。

個人的には、僕もエンジニアの端くれであること、そしてどういう訳か今は「人がよりよく生きるにはどうすればいいか」にとても興味があること、などの点で著者に親近感を抱きました(もちろん、ステージは全く違いますが)。彼の人生の目的は、この「サーチ!」というプログラムを通じて世界を平和にすることだそうです。

僕もゆくゆくは自分の考えを纏めたプログラムを作って世の中に広めていきたいと考えています。そういう意味では、著者の考え方、アプローチ、そして出来上がったプログラムも、全てとても参考になったと同時に、刺激にもなりました。大きな目標や夢を持っている方は、そういう視点で読んでみても面白いかと思います。

人生の科学 「無意識」があなたの一生を決める

今日は、デイヴィッド・ブルックス 著の『人生の科学 「無意識」があなたの一生を決める』という本をご紹介したいと思います。著者であるデイヴィッド・ブルックスはニューヨーク・タイムズのコラムニスト。タイトルに「科学」とついてはいるものの、科学者が書いた本ではありません。

「謝辞」にも書いてありますが、著者は政治や政策、社会学や文化などの執筆を専門としている人です。本書では心理学や神経科学についての記述が多く出てくるのですが、それはもともとは「趣味」なんだとか。ジャーナリストがこのような本を書く「危険性」は承知しているが、近年の心理学、神経科学の成果は素晴らしく、それをどうにか一般の人に分かりやすく伝えたかった、ということのようです。

ここについては僕も同意見で、「人間」を考える上で最近の心理学や神経科学の研究は本当にためになるものだと思います。惜しむべきは、それらが本当の意味で実生活に生かされていない、ということだと思っています。ジャーナリスト、つまり世の中の人に伝える役割の人間として、「どうにかして伝えたい!」という思いがあったのだと思います。

本書は架空のストーリーという形で描かれています。別々の二人の人物が生まれ、出会い、共に人生を生きていくストーリーです。彼らの人生に起こる出来事について、心理学、神経科学はもちろん、経済学や哲学など、様々な観点からの考察が書かれています。著者は、「このような手法を採ることにしたのは、わかりやすいし、実感が伴う」からだと語っています。

読み終えた率直な感想は、人間というものが如何に複雑な生き物か、ということです。そして、僕たちが生きていく上で「無意識」がどれだけ重要な役割を果たしているのか、という著者の主張が、ストーリーを通して読むことで実感に近い形で理解できました。その点では、著者の試みは成功なのだと思います。

ちなみに、このストーリーの登場人物が送ったような人生が「幸福な人生」のモデル、というわけではありません。ある種の「成功観」のようなものを押しつける本でもありません。僕がこのストーリーの主人公のような人生を送りたいかと言われればちょっと疑問ですし、自分ならばこうする、という場面も沢山ありました。読者が注目すべきはストーリーの流れではなく、その裏側で何が起きていたのか、という考察だと思います。

そういう観点でこの本を読むと、「人生」というものについてこれほど包括的に語っている本はなかなかないのではないか、と思います。各論は専門書でよく出てくる話が多いので目新しさ自体はあまりないですが、それらが人生のどんな時に起こり、その後の人生にどんな影響を与えていくのか、という「流れ」や「つながり」がストーリーで語られることによってよく分かりました。

本書には様々な知見が登場します。その中で全体を貫くテーマは、何と言っても「無意識」の持つ力についてでしょう。

例えば人は何かを決断する時、「意識的に」決断していると思っています。しかし、実は無意識の内に既に決断は下されていて、後から意識に伝わる、ということがわかってきたようです。つまり、いくつかの選択肢があった時、無意識は感情という形でそれぞれの選択肢の価値を決めます。理性は、その価値の高いものを選ぶことになります。そういう意味では、意思決定の主役は理性ではなく感情で、その裏には大きな無意識のシステムが広がっている、と捉えることもできるでしょう。

これは無意識に関する論点のほんの一部でしかありませんが、このような無意識のシステムが、どういう過程を経て作られるのか、主人公たちの成長を追いながら解き明かしていく様は、なかなか面白いです。

そしてもう一つのテーマは、人間は社会的な生き物である、という主張だと思います。この点について、以下のように書かれています。

人間はもちろん生物である。生物である以上、その誕生についてあくまで生物学的に説明することはできる。受胎、妊娠、誕生というプロセスを経て産まれてきたわけだ。ハロルド(※ 主人公の名前)もそうだ。しかし、人間はそういう生物学的なプロセスだけではできあがらない。人間、特に人間の本質と呼べる部分ができるまでには、他の人間との関わりが必要になるのだ。

人間の人間らしさは、他の人間の影響なしには作られないということですね。

最後に、僕がなるほどと思った「合理主義の限界」という論点をご紹介しましょう。科学の限界と言ってもよいでしょう。科学的なアプローチで用いられる方法では、物事を小さな要素に分けて考え、それらの総和として全体を説明します。しかし、このアプローチで説明できないシステムがあります。それが「創発システム」と呼ばれるものです。個々の要素が複雑に関係しあい、全体が部分の総和以上になるシステムのことなのですが、人間もまた「創発システム」なのでしょうね。科学的に検証されていることはとてもわかりやすいというメリットがありますが、同時に限界もあるということを知っておいた方がいいのかも知れません。

さて、前述した通り、本書はとても包括的な本です。書かれている内容をまとめることはおろか、論点を書き出すだけでもものすごい量になってしまうと思います。そういう理由で一部の紹介に留めました。詳しい内容は、皆さん自身で確かめてみることをおすすめします。気になった方は、是非読んでみてくださいね!

第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい

今日は、マルコム・グラッドウェル 著の「第1感 『最初の2秒』の『なんとなく』が正しい」という本をご紹介します。

僕は常々、直感とは何だろうと思っていました。ちょっと調べているうちに、「直感」と「直観」という二つの言葉があることを知りました。厳密にはこれらは意味が違っていて、直感は「感覚的に物事を瞬時に感じとること」、一方直観は、「五感的感覚も科学的推理も用いず直接に対象やその本質を捉える認識能力」だそうです。(Wikipediaより)

最初から脱線してしまいましたが、この本ではどちらかというと「直感」について書かれた本だと言えると思います。様々な心理学の実験を元に直感とは何かを考察していくのですが、著者が雑誌のライターということもあってか、とても読みやすく面白い内容になっています。

ところで、タイトルにある第1感とは何でしょうか?訳者のあとがきにはこう書かれています。

世間には「第六感」という言葉があるが、あれは身体的な(したがって理屈で理解可能な)五感の優越を前提として、理屈を超えた六つ目の感覚を想定している。そうではなく、五感に優越する第1感があるのではないか。

なるほど。確かに直感というものをこういう風にとらえることもできそうですね。では、この直感とはどういうものなのでしょうか。

まず、直感とは、限られた情報で物事の本質をつかむ能力と言うことができます。例えばパッと見ただけで何かおかしいと感じたりすることです。科学的に入念な調査をしたわけではない状態(情報が限られている状態)で物事の判断をする時、僕たちは「輪切りの力」というものを使っているのだそうです。

これに関する面白い事例があります。夫婦喧嘩の様子を撮影した15分間のビデオを分析して、その夫婦の15年後を予測するというものです。何だそんなの簡単だよ、と思うかも知れませんが、実際にやってみるととても難しいのだそうです。15分間のビデオには態度、口調、言葉、表情など膨大な情報が入っており、ちゃんと分析しようとすると情報が多すぎるのです。

そこで、注目する要素を絞ってみたところ、90%前後の確立で夫婦の未来を予測できたそうです。著者は、僕たちが直感的に何かを感じる時、同じようなことをしているのだと言います。すなわち、対象を輪切りにして、不必要な要素を捨てて重要な要素に集中する、ということです。この考え方で行けば、どの要素に着目するかを正しく設定することで、直感の精度を上げられるような気がしますね。

次に、直感は瞬時に、そして無意識に起こるということです。これは何を意味しているかというと、直感を下した本人もその理由がわからないということです。そのような状況で説明を求められると、人間はその理由を「でっちあげる」のだと言います。

何かを選ぶ時も無意識であることが多いそうです。数ある商品の中から何故これを選んだのかという理由を説明させてみても、素人にはうまく説明できないそうです。そればかりか、もっともらしい理由を思いつき、本当の好みをその理由に合わせてしまうのだとか。これは何となくわかるような気がしますね。ちなみに、このような現象を「言語による書き換え」と呼ぶそうです。直感で感じた記憶が言葉にすることによって書き換えられてしまうんですね。

一方、プロは違います。理由を語る語彙も、評価する尺度も、経験も持っています。これを著者は、以下のように語っています。

無意識の感想は閉じた部屋から出てくる。部屋の中はのぞけない。でも経験を重ねれば、瞬時の判断と第一印象の裏にあるものを解釈し、意味を読み取れるように行動し、自分を訓練できるようになる。

ここでも、直観は訓練することができる、という主張が出てきていますね。

最後の章では4人の警官による誤射事件を通して、「心を読む力」について考えます。様々な証言などが織り交ぜられていて面白いです。僕が一番面白いと思ったのは、人の感情は必ず顔に現れる、というくだりです。表情記述法(FACS)という方法を使えば、表情により送られているメッセージを驚くほど理解することができるのだとか。これは興味深いですね。

この章で取り上げられている誤射事件では、この「心を読む力」が機能しませんでした。その理由は、人は興奮すると相手の心が読めなくなるから。人は命の危険にさらされると、目が冴えたり、視野が狭くなったり、音が消えたり、時間の感覚がゆっくりになったりするそうです。それは生存するために不要な情報を遮断するからなのですが、それが進み、心拍数が175を超えると、認知プロセスが完全におかしくなるのだとか。

腹を立てたり、脅えている人と議論しようとしたことはないだろうか?無理だ。・・・犬と議論するようなものだ。

確かに、感情的になっている時に議論することも不毛さは、僕もたびたび経験があります。そういう時は、頭を冷やして仕切りなおした方が賢明ですね。

さて、如何だったでしょうか。本書の中にはもっと様々な実験データ等も取り上げられており、とても面白いです。学術的な言葉も出てはくるのですが、とても平易に書かれているためにすぐ読めてしまいました。直感の正体について興味がある方は是非読んでみることをお奨めします!

「先延ばし」にしない技術

今日は、イ・ミンギュ 著の「『先延ばし』にしない技術」という本をご紹介したいと思います。心理学者である著者が実行力を身につける方法について書いた本です。先日ご紹介した「やりきる技術―最高のパフォーマンスを生み出す仕事のきほん」という本に通じるものがありますが、こちらはもう少し硬派な印象を受けます。

さて、内容です。著者は、偉大な人達が足跡を残せたのはアイデアを実行に移したからだと言います。そしてその実行力というのは、生まれつきの資質ではなく、技術だそうです。つまり、誰でも訓練すれば実行力を身につけることができる、というわけですね。これには少し勇気づけられますね。

さてその実行力。分解すると、決心、実行、維持という三段階に分かれます。本書では、それぞれについて章が設けられており、詳細なアドバイスが書かれています。ここでは、面白いと思った話題をピックアップしてご紹介したいと思います。

まずは目標について。何かを実行する上で、一番最初に必要なのは目標を定め、「やる」と決意することです。それがないと何も始まりません。その際に、「ゴールをイメージすれば夢がかなう」といったことが多く語られてきました。著者は、これは実際には効果がなく、かえって邪魔になることすらあると言っています。

その理由は、あまりにバラ色の未来を思い描いていると、何かうまく行かなかった時に簡単に挫折してしまい、イメージの中に逃げ込んでしまう可能性が高いからだそうです。ではどうすればいいのか。それは、ゴールをイメージして何かをやる決意が生まれたら、そこからは「どうやってそこにたどりつくか=プロセス」をしっかり考えること。

プロセスをあれこれ考える時には、当然想定される障害やリスク、代替案なども考えますよね。つまり、ゴールした姿という楽観的なイメージと、失敗した時にどうするかという悲観的なイメージを両方持つことが重要なのだそうです。もっと言えば、楽観的なイメージと悲観的なイメージをどのようにバランスさせて、前に進む力に変えていくかが重要なんだと思います。具体的な方法を考えずにゴールを考えていても前には進みませんし、心配ばかりして恐れていたらなかなか行動に移すことができませんよね。

次に変わりたいと思っても変われない理由について。その理由について、「今の状況が、耐えられないほど苦痛ではないからだ。切実に望むものがないからだ。」と書かれています。う~ん、とてもストイックですが、これは僕も実感としてあります。必要性を心の底から理解している時は、実行するのはそれほど苦ではないと思います。苦であっても、必要なのでやらざるを得ない、という感じでしょうか。

さて、次は実行に関して二つほど。一つは、何かを「やろうかな、でも後にしようかな・・・」と迷ったときは、その実行のベストタイミングは「今」だということ。「後で」は永遠にやってきません。これはとても耳が痛い言葉ですが、まさにその通りだと思います。最初の一歩さえ踏み出せば物事はどんどん進んでいくもの、最初の一歩は小さくてもいいので、「今」始めてみるといいかも知れませんね。これに付随して、こんな記述がありました。

本当に残念なのは、ただ時間を浪費するだけでなく、待っている間に頭の中にあった目標が消えてしまうことだ。将来、何かになりたければ、必ずいま何かをしなければならない。

本書には、「行動に移さないアイデアはゴミだ」という強烈なタイトルのコラムがあります。しかし、せっかくのアイデアも実行に移せなければ、結果としてゴミになってしまうという意味では正しいのかも知れませんね。

実行に関するもう一つのトピックは、「できない理由」に関してです。できない理由を述べる前に、やってみたのか?著者はこれを実験精神と呼んでいるのですが、何事も実験だと思えば、実行に移すハードルはかなり下がります。僕は、厳密に言えば実際にやってみないと「できない理由」などわからないのではないかと思います。この辺りは精神論と言えなくもないですが、頭の片隅に置いておくと、いざという時に後押ししてくれるかも知れませんよ。

最後に、「目標達成率を高める観察の力」というトピックです。これは、人は誰かに見られていることを意識すると行動が変わりやすいということだそうです。そして、「誰か」というのは自分自身も当てはまります。一時期流行ったレコーディングダイエットなどは、この力を応用したものなんだと思います。僕も昨年末から今年にかけて家計簿、体重記録などをつけ始めました。これが本当に効果が実感でき、意識の力はこれほどなのか、と思っています。これについてはまた改めて書きたいと思います。

いくつかトピックをご紹介してきましたが、本書の中にはもっともっと沢山のアイデアが詰まっています。非常にストイックな印象を受けますが、どれも正論だと思います。以前にも書きましたが、この手の本は読んだ後、取捨選択やアレンジをして自分のやり方として昇華させる必要があるものです。少なくともそのための重要なヒントは散りばめられているので、実行力について真面目に考えてみたい方は是非読んでみてください!

自分の秘密 才能を自分で見つける方法

今日は、北端康良 著の「自分の秘密 才能を自分で見つける方法」という本をご紹介したいと思います。著者の肩書きは、才能心理学協会 理事長。そんな学問分野や団体があるのを始めて知りましたが、タイトルに惹かれて購入してみました。

世の中には偉人と呼ばれるすごい人が沢山います。彼らは皆、何かしらの才能に恵まれた人たちのように見えます。本書は、何故彼らはそのような才能を手に入れることができたのか、という問いかけで始まります。

才能が継続によって培われるものだとか、その継続を支えているのは切望感や感情である、というのはよく言われますね。著者は、その切望感や感情を生み出している秘密を明らかにすべく、様々な偉人の人生を検証していきます。このパートが「プロローグ」になっているのですが、分量的には全体の半分近くを占めており、検証にとても力を入れていることが読み取れます。数人の偉人の人生が著者の解釈で語られており、お話として読むにも面白いですよ。

長いプロローグが終わると、いよいよ「才能の秘密」を解き明かす段階に入っていきます。そこには、5つの秘密があると言います。ここでは、特に面白いと思った最初の3つをご紹介したいと思います。

  1. 才能の源泉
  2. 能力の源泉
  3. 才能のベクトル
  4. 時代の声
  5. 才能の闇

まず一つ目の秘密、才能の源泉。ここで語られるのは、「才能の源泉は、人生のルーツにある」ということです。この人生のルーツという言葉、なかなか答えるのが難しい質問ですよね。それに対して著者は、なかなか面白い切り口を提供してくれています。

世の中の人間には、二種類の人間しかいない。
二種類の人間とは、「ある人」と「ない人」です。

人生に「あったもの」もしくは「なかったもの」がその人に大きな影響を与え、才能の源泉になっているということのようです。何が「あった」のか、または「なかった」のかは人によって違いますが、それらの個人的な体験を通して感じた感情が、人を突き動かす原動力になる。またそれは、身近な体験であればあるほど、強烈であればあるほど、大きな原動力になります。

例えばとても身体が弱かったことが強烈な体験として焼きついている人は、将来自分と同じような境遇の人を助けたい、という志を持つかも知れませんよね。この例では、健康な身体が「なかった」と考えることができます。一方、小さい頃から父親に憧れて育った子供が、父のようになりたいと思ったとします。これは、尊敬すべき父親が「いた(あった)」と考えられます。

「ある」体験や「ない」体験、皆どちらの体験もしているはずですが、その人にとって最もインパクトを与えた体験がどちらかによって才能の源泉は異なる、というのが大きなポイントだと思います。才能の源泉が違えば、以下のような違いが出ると言うのも面白いですね。

「ある人」は維持し、広げる人で、「ない人」は変革し、創り出す人。

続いて二つ目の秘密、「能力の源泉」についてです。第一の秘密で扱った切望感を満たすためにはそれなりの「能力」が必要ですよね。著者は「能力」を「能力の源泉 × 技術」、「能力の源泉」を「無意識的に繰り返している感情・思考・行動のパターン」とそれぞれ定義しています。

これはつまり、能力とは単純な技術のことではなく、感情・思考・行動のパターン(能力の源泉)と技術が結びついたもの、ということを言っているのだと思います。さて、この定義で考えれば、少なくとも「能力の源泉」がない人など存在しません。感情・思考・行動に一切関わらずに生きてきた人などいませんからね。

では、感情・思考・行動のパターンとは何でしょうか?それは、普段から何気なく行っている感情→思考→行動という一連の流れの中にある一貫性のことです。ある出来事に対して何かしらの感情を持ち、それを自分の中でどのように考え、その結果どのような行動を起こしてきたでしょうか。そのようなパターンが度々繰り返されてこなかったでしょうか。そういったパターンは繰り返されることでどんどん強化され、自分だけの強みになっていきます。

著者はこのパターンと具体的な技術が結びついたもの、それがその人特有の能力だと言っているのだと思います。能力の定義の中に感情や思考の要素が入ってくる、というのはなかなか面白いですね。コンピテンシー(優れた業績を達成している人の基本的な特徴)理論でも、単純な技術は比較的習得が容易とされていますが、要は技術だけで優位性を保つのは難しい、ということなのでしょう。

三つ目は才能のベクトル。これは言い換えればビジョンのことです。そのヒントは、

「誰を幸せにしたいのか?」
「その人のために、どんな理想の未来を描き、目指すのか?」

という問いに答えが隠されていると語られています。そして、「才能のベクトル」の章の最後には以下のように書かれています。

あなたは、誰を幸せにしたいでしょうか?
かつての自分のような人でしょうか。両親や兄弟姉妹でしょうか。友人でしょうか。
その人を、どんな世界に連れて行きたいでしょうか?
「これが満たされれば、みんな幸せになれた」と、あなたが思っていた世界。
その場所は、かつてあなたが「愛する人を必ず連れて行く」と胸に誓った約束の地。
ビジョンとは、「約束の地」のことなのです。

僕はこのフレーズがとても気に入っています。ビジョンとは単なる未来予想図ではなく、想像しただけで心躍るような、感情に訴えかけるような、そんな絵である必要があると、僕も思うからです。

5つの秘密のうち3つをご紹介しましたが、如何だったでしょうか?既にご紹介した3つの秘密についてもっと詳しく知りたい!という方や、残りの2つも気になる、という方は是非本書を手に取ってみてくださいね。才能というテーマについてとても深く考えられている良書だと思います。

※ 本書の最後には、「最後の秘密」として、実はもう一つ秘密があることが書かれています。が、内容は明かされておらず、読者に問いかける形になっています。僕も自分なりに答えを考えて、思いついたら後日改めて書きたいと思います。

自分を超える法

今日は、ピーター・セージ 著の「自分を超える法」という本をご紹介したいと思います。このピーター・セージは、世界的に有名なコーチ、アンソニー・ロビンズの公式トレーナーに史上最年少で認められた人です。本書の中でも彼のキャリアが語られていますが、22社の会社を経営し、現在は太陽エネルギー関連の一兆円規模のビジネスに取り組んでいるみたいです。

さて、そんなすごいキャリアを持つ彼の本。肝心の内容は、いわゆる成功哲学の部類に入ると思います。「真の成功」を手に入れるために必要なことは何か、を5つの法則という形で書き記してあります。

  1. 「成功の心理学」
    成功の80%は心理で決まる
  2. 「お金のつくり方」
    資金ゼロでもビジネスはできる
  3. 「リーダーシップ」
    人間関係の達人になる方法
  4. 「世界観をつくる」
    人生に力を与える考え方
  5. 「文章の力」
    言葉ひとつで劇的な成果を上げる

僕は「成功」を目的として掲げた本というのはあまり読まないのですが、著者の言う「真の成功」の定義に共感するところがあったので読んでみました。

お金がたくさんあっても、大豪邸に住んでいても、忙しく仕事をするだけで、恋人や友人、家族と会話をする時問がないのでは、成功とはいえません。経済的豊かさを味わい尽くすライフスタイルを手に入れ、「人生が充足していると感じる心が伴ってこそ、真の成功といえる」はずです。

個人的には、必ずしも経済的豊かさがここで言う「真の成功」の絶対条件だとは思いませんが、人生が充実していると感じる心を持つことが重要、という考え方にはとても共感します。

それでは5つの法則のうち、僕が特に参考になった「成功の心理学」について少しご紹介したいと思います。

成功の心理学って何?と思うかも知れませんが、内容は人間の行動の裏にある欲求についての記述がメインです。人間の欲求と言うとアブラハム・マズローの欲求段階説が有名ですが、著者はそれとは異なる「シックス・ヒューマン・ニーズ」という考え方を示しています。人間には6つの欲求がある、というもので、内容は下記の通りです。

  1. 安定感・・・安定したいというニーズ
  2. 不安定感・・・変化が欲しいというニーズ
  3. 重要感・・・価値ある存在でありたい、自分は特別でありたいというニーズ
  4. 愛とつながり・・・愛されたい、誰かとつながりを持ちたいというニーズ
  5. 成長・・・成長したいというニーズ
  6. 貢献・・・何かに貢献したいというニーズ

安定感というニーズは、人間の基本的な欲求であるとしながらも、現代社会においては、この安定感というニーズが過剰に求められすぎている、と著者は言います。そもそも、絶対の安定が保証されている場所などどこにもないですし、逆に完璧に安定した生活があったとしても、人間はそれに耐えられないですよね。それは、安定と逆のニーズ、不安定感というニーズがあるからです。人間には、変化が必要という考え方ですね。

安定感と不安定感は相対するもので、それぞれのバランスを取りながら人は生きているのですが、ここでなるほどと思わせる名言が出てきます。人生の質は、あなたが居心地のよさを感じられる、不安定感の量に正比例する。確かに、自分のストレスにならない範囲で変化に満ちた毎日、というのはちょっと魅力的ですね。だから、不安定な状況に対処する能力を身につければ、人生の質は向上する、ということになります。

重要感というのは、自分は価値のある人間だと思いたい、というニーズです。これは上手く付き合えば自分を動かす強い原動力になり得るのですが、エゴとの関わり方によって建設的にも、破壊的にもなり得ると言います。エゴと結びついてしまうと、自分の欲を満たすため、自分の重要さを誇示するという行動に出てしまうのです。

愛とつながり、というのは誰かから愛されたい、つながりを持ちたいというニーズ。これは重要感と対極にあるニーズです。重要感というのは自分は特別でありたい、というニーズですから、これを求める時点で他人とは分離した状態となります。

さて、安定感 vs 不安定感、重要感 vs 愛とつながり、というようにこの2対のニーズはそれぞれ対立しており、人はそのバランスを取ろうとします。しかし、このバランスを突き詰めることが人生の目的ではない、と著者は言っています。では、何が人生の充足感を決めるのか?それが「成長」と「貢献」です。成長と貢献に関しても面白い論点が色々と紹介されていますが、ここでは以下の文章を引用するに留めておきます。

自分の「失敗や試練」を、世の中に役に立つものに転換させて「成長」し、自分の一生を超えた、永続的な「貫献」という名の財産を残すことこそが、真に満たされる人生なのです。

このヒューマン・シックス・ニーズという考え方。このフレームワークを使うと人間の持つ様々な側面をシンプルに説明できると思います。本書には、これ以外にも様々な考え方・フレームワークが提示されています。内容の半分はビジネス関連ですが、一応起業家のはしくれである自分にとっては、それもとても参考になりました。

全体としてとても読みやすく、面白いだけでなく、読んでいて頑張ろうと思えるような、そんな本だと思います。一度だけでなく、何回か読み直してみたいと思っています。Amazonでもなかなか高評価のようですね。気になったら是非読んでみてくださいね!

自己肯定感って、なんやろう?

今日ご紹介するのは、臨床心理学者である高垣忠一郎と、版画家の山田喜代春によるコラボレーションから生まれた絵本、「自己肯定感って、なんやろう?」です。

この本は、自己肯定感という分かっているようで分かりづらい概念を、絵本という形で表現しています。臨床心理学者の高垣さんが不登校の子どもの親御さんに向けて話した講演録に、絵をつけたようですね。講演録ということもあってか、終始関西弁で語りかけるような口調で、なんだかほのぼのします。版画も味があり、全体的に優しい感じがする、いい絵本だと思います。

絵本なのでボリュームも50ページと少ないです。が、読んでみると結構内容は深いです。

自己肯定感というと、自分の中に肯定できる部分を見つけること。そう考えてしまいがちですよね。でも、探しても探しても見つからない人はどうなるのでしょう。そもそも、肯定できるかどうかという基準はとても相対的なものです。その基準が比較的緩やかな人は、自分の中に肯定できる部分を沢山見つけられるかも知れません。

でも、その基準が厳しい人は、肯定できる部分を見つけられずに苦しんでしまうのではないでしょうか。こう考えると、「自己肯定感」という概念を間違って使うと、人によっては余計苦しくなってしまうのだと言えます。

著者の言う自己肯定感はこうです。人にはそれぞれ欠点や弱点、ダメなところはあります。もちろん、無いにこしたことはないですし、それそのものを肯定することはできません。でも、欠点があってもいいんです。欠点を抱えながらも一生懸命生きる、その健気さに免じて自分を「こんな自分でもいい」と赦してあげる。この感覚が自己肯定感と言うのだそうです。

自分のいい所に目を向けましょう!という感覚と、この自己肯定感のニュアンスの違い、なんとなくわかりますよね。

自分にダメな所があることを認めつつも一生懸命生きるためには、そのダメな所を認識し、その上で受け入れる必要があります。それは、ダメな部分がある自分を、「それでもいいんだ」と受け入れてあげるということです。

自分のことを好きになれない人、いると思います。本書の中では、そうなってしまう原因の一つとして広告を挙げています。これは僕も非常に強く共感する部分なのですが、世の中のメディアを見ていると、コンプレックスを刺激するようなメッセージが飛び交っていますね。例えばダイエット広告。見ている人からすれば、「ダメな所」を指摘され、「もっとこうした方がいいですよ」と日々言われ続けていることになります。

また、最近は情報がすぐ手に入るため、どうしても人と比べがちですよね。他人はみんなこうなのに、自分は…。そんな状況では、不安なので無理やり自分の「いいところ」を見つけようとします。前述の通り、それでも見つからない人はさらに苦しむことになりますし、なんとか見つけたとしても、「~だから自分は大丈夫」というように、自分を認めるために条件が必要になってきてしまうんですね。

自己肯定感とは、自分の長所を無理やり見つけることではなく、ダメな部分も含めた自分を「それでもいいんだ」と認め、受け入れること。諦めや開き直りとも違うものだと思います。僕も、「自分はダメだ」と思うことがよくあります。おそらく、自分の理想が高すぎて、それについていけない現実の自分が嫌なのだと思います。そんな自分にイライラせず、きちんと受け入れられるようになりたいと思います。

自己肯定感の意味がよくわかる本書、とてもおすすめです。30分くらいですぐに読めるので、是非読んでみてください。読み終わると、なんだかほっこりしていると思いますよ!